欧州人権裁判所(ECHR)は6日、同性婚に賛同するメッセージを入れたケーキの制作を拒否したキリスト教徒の製菓製パン店に対する同性愛擁護活動家の申し立てを棄却した。
原告の同性愛擁護活動家であるガレス・リー氏は2014年、北アイルランドの首府ベルファストにある製菓製パン店「アッシャーズ・ベイキング」に、「同性婚を支持する」という言葉がアイシングされたケーキを注文したところ、オーナーのコリン・マッカーサー氏と妻のカレンさんに、宗教的信条を理由に断られた。その後リー氏は、性的指向に基づく差別を受けたとして、マッカーサー夫妻を訴えた。
訴訟開始から4年後、英最高裁は、注文を断るのは夫妻の権利の範囲内であるとする判決を下した。判決では5人の最高裁判事が、問題はケーキに書かれたメッセージの宣伝を求められたことであり、リー氏の性的指向に関わるものではないと判断。平等法は、自身が強く反対する事柄を述べるように強制するものではないとした。
英最高裁でマッカーサー夫妻が勝訴したことを受け、リー氏はこの問題をめぐって、英政府を相手取る訴訟をECHRに起こした。
リー氏の弁護士らは、欧州人権条約は、アッシャーズ・ベイキングとマッカーサー夫妻が個人的に同意しない政治的メッセージを込めた製品をも提供するよう求める積極的義務を英最高裁に課している、と主張した。
マッカーサー夫妻と、14年から夫妻を支援してきた英慈善団体「クリスチャン・インスティテュート」は、ECHRの訴訟における当事者ではなかったものの、弁護士らを通じて書面介入し、この申し立てを棄却すべきだと主張した。
クリスチャン・インスティテュートの広報担当者であるサイモン・カルバート氏は、ECHRがリー氏の申し立てを棄却したことは「正しい結果」だとして次のように述べた。
「英最高裁は、この事件で人権に関する議論に長く取り組み、マッカーサー夫妻の表現の自由と信教の自由に関する権利を支持しました。これらの権利を弱めようとする再度の試みには落胆させられましたが、それが失敗に終わり安心しました。(同性婚に賛同しない)キリスト教徒の経営者を守るのと同じように、同性愛者の経営者を、共感できない意見の宣伝の強制から守る判決を覆そうとする人がいるとは驚きです」
「2018年10月の英国で最も著名で経験豊富な5人の判事による判決は、あらゆる分野の弁護士、コメンテーター、言論の自由の専門家らから歓迎されました。彼らは皆、判決がアッシャーズ・ベイキングに不利になった場合に生じる言論の自由および信教の自由への影響を知っていました。例えば、イスラム教徒の印刷業者がムハンマドの漫画を印刷することを強制されたり、レズビアンが経営するケーキ屋が同性婚を『忌み嫌う』と表現したケーキを作ることを強制されたりする可能性があったのです。今回の結果は、言論の自由にとって良いニュースであり、キリスト教徒にとって良いニュースであり、マッカーサー夫妻にとって良いニュースです」