結婚や性に関する自身の見解を表明したことで、フィンランド元内相の国会議員パイビ・ラサネン氏と、ラサネン氏のパンフレットを出版した同国のルーテル派被選監督ユハナ・ポージョラ氏が起訴されたことをめぐり、ルーテル派の世界組織の一つである国際ルーテル協議会(ILC)が、起訴を非難する声明(英語)を発表した。
声明は、ILCのほか、告白福音ルーテル連盟(CELC)に加盟する教団・団体の監督や議長らを含めた50人弱が署名。「結婚と性に関するイエスの言葉(マタイ19:4〜6)の明確な教えを守るクリスチャンを起訴したフィンランド国家の行動は言語道断である」と非難している。
フィンランド福音ルーテル教会(ELCF)の信徒であるラサネン氏は、結婚と性に関する自身の見解を表明したことが「民族的扇動」に当たるとして、計3件の表現行為で起訴され、最長で計6年の禁錮刑に処せられる可能性がある。
国会議員歴が25年を超えるラサネン氏は、2004年発行の性倫理に関するパンフレットの中で、結婚は一人の男性と一人の女性の間のものであると記述。19年にはラジオ番組で自身の見解を述べ、さらに同年、結婚や性に関するELCF指導者の姿勢を疑問視する内容を聖句と共にツイッターに投稿。これら3件が問題とされた。
フィンランド福音ルーテル宣教教区(ELMDF)の被選監督であるポージョラ氏は、ラサネン氏のパンフレットを出版したことで、同じく「民族的扇動」の罪に問われている。
「フィンランドの宗教的言論の自由のための抗議と呼び掛け」と題されたこの声明は、「被告人らは、LGBTQ(性的少数者)コミュニティーに属する人々を含むすべての人々の神から与えられた尊厳、価値、人権を明確に肯定している」とし、ラサネン、ポージョラの両氏が性的少数者を差別しているわけではないと指摘。さらに「『隣人を自分のように愛しなさい』(マルコ12:31)と、キリストご自身がすべての人を愛するよう命じている」と続け、「私たちルター派は、ポージョラ博士とラサネン博士と共に、この強い告白を表明する」と強調し、次のように問い掛けている。
「カトリックや東方正教会を含め、あらゆる国の大多数のクリスチャンがこのような確信を共有している。フィンランド検事総長は、私たち全員を非難するのだろうか。さらに、フィンランド国家は基本的人権を乱用することで、他国政府からの制裁リスクを負わなければならないのだろうか」
フィンランド検察は、ラサネン氏のこれまでの発言が性的少数者を蔑視・差別し、不寛容と名誉毀損を助長するものであるとしている。
しかしラサネン氏は、自身の表現は「合法であり、検閲されるべきではない」と主張。代理人を務めるオーストリアのキリスト教法律団体「ADFインターナショナル」が4月に発表した声明(英語)の中で、次のように述べている。
「私は、自分の宗教的信条を表明することで投獄されることは受け入れられません。私は、誰かを脅したり、誹謗中傷したり、侮辱したりするという罪を犯したとは思っていません。私の発言はすべて、結婚と性に関する聖書の教えに基づいています」
「私は自分の意見を撤回しません。脅されて自分の信仰を隠すこともありません。クリスチャンが物議を醸すようなテーマに沈黙すればするほど、言論の自由の場は狭まっていきます」
この問題をめぐっては、法学が専門の大学教授や学者らが5月、米国際宗教自由委員会に対し、ラサネンとポージョラの両氏を起訴したフィンランド検事総長に制裁を科すよう、国務省に圧力をかけるよう求めている。
米政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」に掲載された公開書簡(英語)で、ハーバード大学やイェール大学、プリンストン大学などの教授らは、今回の起訴について「フィンランドの聖職者や一般の宗教信者に、刑務所に入るか、さまざまな信仰の教えを放棄するかの選択を迫ることになる」と主張している。
ラサネン氏は、結婚や性、安楽死、中絶などに関して、伝統的なキリスト教の考え方を擁護する立場で知られており、論争の的になることは珍しくない。欧州のキリスト教メディア「エバンジェリカル・フォーカス」によると、ラサネン氏はELCFの指導者らよりも保守的な意見を主張することが多いという。