韓国のNGO「北朝鮮人権情報センター」(NKDB)がこのほど、『2020年北朝鮮宗教の自由白書』(韓国語)を発表した。白書によると、北朝鮮は世界で最も迫害がひどい国でありながらも、国内で「聖書を見た」と話す脱北者は4%に上り、水面下で宗教活動が継続的に行われていることが分かった。
03年に設立されたNKDBは、07年から北朝鮮の宗教の自由に関する調査を始め、脱北者証言などを基に毎年『北朝鮮宗教の自由白書』を発行している。これまでに、07~20年の間に韓国に入国した脱北者1万4832人を対象に聞き取り調査を行い、被害者や目撃者ら1234人から、宗教迫害に関する計1411件の情報を得ている。
白書について詳報している韓国クリスチャントゥデイ(韓国語)によると、北朝鮮国内で「聖書を見た」と話す脱北者は合計で575人(4%)いた。年代別に見ると、00年以前に「聖書を見た」とする人は16人にすぎなかったが、01年以降に「聖書を見た」とする人は559人に上った。特に08年以降は12年連続で4%を上回っており、このうち19年が最も高く、実に7・6%が「聖書を見た」と回答した。
宗教活動に対する処罰は依然厳しく、脱北者の46・7%が、宗教活動が見つかれば「政治犯収容所」に収監されると回答した。政治犯収容所への収監は、北朝鮮における最も厳しい処罰を意味し、宗教活動が「反民族的・反国家的」行為と見なされ、政治犯罪として扱われていることが分かる。一方、宗教活動に対する処罰を「知らない」と回答した人も38・6%おり、その多くは宗教迫害の現場に遭遇した経験がない人たちだった。
白書によると、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は14年4月中旬、キリスト教に触れた住民を逮捕するよう命令。中国においても、脱北したクリスチャンを取り締まる活動を積極的に行っており、北朝鮮の秘密警察・情報機関である「国家保衛省」や朝鮮人民軍の諜報・特殊工作機関である「偵察総局」、また中国国内の領事館の職員らも動員して取り締まりを行っているという。
北朝鮮における宗教の自由を尋ねる質問では、99・6%が「北朝鮮では宗教活動を自由に行うことができない」と回答。特に17~19年の期間は、宗教活動が可能だと回答した脱北者は1人もいなかった。
首都・平壌(ピョンヤン)以外の地方に北朝鮮当局が認める正式な家庭礼拝所があるかを尋ねる質問には、98・6%が「ない」と回答。「ある」と回答した1・3%も、家庭礼拝所があると認識しているだけで、実際に目撃したことはなかった。
一方、北朝鮮で秘密裏に宗教活動に参加したことがあると回答した人は、脱北者全体の1・2%に相当する168人だった。
NKDBの調査で、宗教迫害に関係があったとされる1234人の内訳は、被害者774人、加害者18人、目撃者232人、伝聞証言者198人、その他12人。また、NKDBが確認した宗教迫害1411件の内訳は、目撃によるものが734件、経験によるものが129件、伝聞によるものが545件、証言者の確信によるものが3件だった。
この内、祈りや賛美歌の歌唱、礼拝などの宗教活動に関係するものが748件(53・0%)と最も多く、次に宗教物品の所持が332件(23・5%)、宗教に関する電波利用が146件(10・3%)、宗教家への接触が63件(4・5%)だった。
宗教迫害の被害者のうち、生存が確認できたのは22・2%のみで、17・2%は死亡し、残り60・6%は不明とされた。
北朝鮮は、迫害監視団体「オープン・ドアーズ」が迫害国家上位50カ国をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト」(英語)で、ワースト1位に19年連続で指定されている。
オープン・ドアーズによると、北朝鮮国内には政府が認めていない秘密の「地下教会」があり、推計で20~40万人のクリスチャンがいるとされている。しかし公の場では、信仰は完全に秘密にする必要があり、聖書も一人でいることを確信できるときにしか読めないという。そのため、自身の子どもであっても10代になるまでは信仰について話すこともしないという。