カン・スクヨンさん(当時17)は、神を礼拝する自由を求めて3千マイル(約4800キロ)に及ぶ脱北の旅をした。
米国と韓国に拠点を置く脱北者支援団体「リバティー・イン・ノースコリア」(LiNK)が10月に公開した動画(韓国語)で、カンさんは当時の思いを語った。
カンさんの証しは、歴史を通じて多くのクリスチャンが直面してきた葛藤で始まる。家族や家を捨てて神を礼拝することを選ぶか、それとも独裁体制の下で生きることを選ぶか。カンさんの場合、後者の選択は、共産党政権による強力な一党独裁が敷かれる北朝鮮で生きることを意味していた。
「神様、私はどうすればよいのでしょうか。私は夢を持てるようになりたい。自分で選択できる人生を送りたい。でも、家族は捨てたくありません。どうしたらよいのでしょうか」。カンさんは当時の葛藤を明かした。「私は最終的に、自分の夢と自由を選びました」
カンさんが住んでいたのは北朝鮮東北部の両江道(リャンガンド)。北部が中国との国境に接する地域だ。米ニューヨーク・タイムズ紙(英語)によると、中国との国境沿いに暮らす北朝鮮の人々は食糧を密輸に依存していることが多いという。飢餓との絶え間ない戦いを強いることで、北朝鮮政府は民衆が自由について考えないようにしているとカンさんは話す。
「食事や睡眠、安全といった基本的なニーズを満たさせないようにすることで、政府は民衆が欲求を満たすことだけに集中するよう仕向けるのです」
朝鮮労働党が最も嫌う集団はクリスチャンだとカンさんは言う。政府の狙いは、民衆に国の指導者を神だと思い込ませ、支配を維持することだ。それ故、政府は指導者たちを崇拝しない者たちを恐れる。
「政権が宗教を恐れるのは、キリスト教が怖いからです」と、米首都ワシントンに本部を置く人権団体「北朝鮮人権委員会」のグレッグ・スカルラトイウ事務局長はクリスチャンポストに語った。「朝鮮半島北部は、かつて韓国の長老派教会の発祥地でした。金政権が誕生した際、キリスト教は極端な偏見により根絶されました。北朝鮮の民衆は週ごとにイデオロギー研修会に参加して、金日成(キム・イルソン)と金正日(キム・ジョンイル)が永遠の存在だと信じなければなりません」
カンさんによると、彼女のおじは北朝鮮でキリスト教の伝道師をしていたが、伝道しているところを警察に拘束され、投獄された。カンさんは、おじが拘束される前までは、北朝鮮の現実に気付いていなかったという。
「おじは命懸けの生活をしていました。毎日、その日が最後であるかのように生きていたのです」とカンさん。「食べ物を持って刑務所にいるおじを訪ねるようになったとき、私は北朝鮮の現実を目の当たりにするようになりました」
カンさんは2011年、北朝鮮を脱出した。国境を越えて中国に入り、LiNKのスタッフたちと落ち合った。彼らはカンさんが韓国に行く途中、警察や人身売買業者に見つからないよう手助けした。中国人に見つかると、脱北者は捕らえられて北朝鮮に送還され、罰せられることになる。韓国に到着したカンさんは、神をほめたたえた。
「韓国では思いどおりに礼拝し、賛美することができたので、その自由をとても感謝しました。感謝の気持ちでいっぱいでした」とカンさん。「目的もなく韓国に来たわけではありませんから」
北朝鮮が世界に門戸を開いたとき母国の再建を手伝えるよう、カンさんは米国の大学院に進む計画を立てている。
「私はその時のために準備をしています」「それが私のビジョンです。自由は信仰の表れなのです」