迫害下のキリスト教徒を支援する国際団体「殉教者の声」(VOM)がこのほど、北朝鮮のプロパガンダ動画を入手し、同国ではキリスト教徒が、韓国政府のために活動する「宗教的狂信者」や「スパイ」とみなされていることが明らかになった。動画は北朝鮮の治安機関の訓練のために制作されたもので、同国内で宗教を広める人物を特定し、根絶するためのものとVOMはみている。
動画では、チャ・ドクスンという一人の女性のストーリーが取り扱われている。それによると、チャさんは数百万人の死者が出たとされる1990年代の大飢饉で飢えに苦しみ、中国にいるおじを頼って脱北した。チャさんは中国にたどり着くも、おじがすでに亡くなっていることを知る。しかしチャさんは、ソタップ教会との出会いが与えられ、初めて福音を聞き、キリストに命をささげることを決める。
動画は、チャさんが「よく考えもせず」「迷信にすぎない」宗教を信じ、「愚かにも『神の国』を打ち立てようとする」と説明。さらに「ソタップ教会は、韓国の傀儡(かいらい)政府が派遣した諜報部員らが牧師に変装して運営している」と言う。そして「ソタップ教会は不法入国のホームレスたちを受け入れ、反共和国(反北朝鮮)の宗教教育を施し、スパイにするために効果的な訓練をしている」と続ける。
動画によると、チャさんは「スパイの任務」を帯びて北朝鮮に戻り、地下の教会ネットワークを構築するために「敵」によって送り込まれる。「迷信を信じ北朝鮮に対して不忠実になったチャは、慈悲深い神に関する説教を盲目的に信じ、宗教的狂信者となった」「彼女は敵に完全にだまされたのだ」と、動画はチャさんを断罪する。
チャさんは北朝鮮で伝道者として働き、日曜日ごとに隠れて信仰を守っているキリスト教徒たちを集め、礼拝と祈りの時を持っていたとし、動画ではその様子を捉えた写真も紹介している。
しかしその動画によると、「善良で目が開かれた北朝鮮国民」によって裏切られたチャさんは、ついに当局に捕らえられてしまう――。
VOMは、チャさんが強制労働収容所で死亡したか、銃殺刑にされた可能性があるとみている。チャさんは「多くの北朝鮮のキリスト教徒と同様に、人知れず主に仕えていました。北朝鮮政府が、キリスト教を根絶しようとしているにもかかわらずです」とVOMは続けた。
迫害監視団体「米国オープン・ドアーズ」は、キリスト教徒に対する迫害のひどい国をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト」で、北朝鮮を18年連続で、世界で最も迫害がひどい国として位置付けている(関連記事:迫害がひどい50カ国発表 北朝鮮18年連続1位、インドが初のワースト10入り)。
■ VOMが入手した北朝鮮のプロパガンダ動画(朝鮮語、英語字幕あり)