世界では新型コロナウイルスにより約94万人の死者(17日現在)が出ている中、公式には死者が1人も報告されていない北朝鮮。しかし、北朝鮮の地下教会を支援している情報筋によると、同国では「幽霊病」と呼ばれる病気が流行しているという。さらに、地下教会で信仰を守る信者は、新型コロナウイルスによる影響に加え、大雨や猛暑も重なり、「今年は本当に苦しい」と言う。
キリスト教迫害監視団体「オープン・ドーアズ」(英語)の北朝鮮コーディネーターを務めるサイモンさん(仮名)は次のように話す。
「(北朝鮮の)人々は、何も知らずに感染している可能性があります。通常、北朝鮮の人々はもともと栄養失調ですから、(新型コロナウイルスに感染した場合)すぐに死んでしまいます。道ばたで死んで倒れている人たちすらいます。この病気は目に見えない殺人者なのです」
危険なのはウイルス感染だけではない。他国と同様、北朝鮮も感染防止策を講じているが、同国におけるロックダウン(緊急事態下のエリア封鎖)は、食料流通に大きな影響を与え、人々の命に直結する問題となる。日頃から食料調達が難しいこともあり、合法的なルートだけでなく、闇市場においても影響があるからだ。
「多くの市場が営業を中止しています。人々は闇市場に依存し切っているというのに」とサイモンさんは言う。「仮に市場が開いていても、購入できる食料はほとんどありません。その上、価格は4倍に跳ね上がっています。米を1キロ買うのに何カ月分もの給料が必要です。トウモロコシの価格もかなり高騰しています。中国との国境が封鎖されているため、貿易や密輸が滞っています」
新型コロナウイルスの発生地である中国と国境を接する北朝鮮は、貿易の多くを中国に依存しているが、1月下旬の早期に国境を封鎖。現在も国境の監視は強固に維持されており、オープン・ドアーズによると、国境となっている鴨緑江(オウリョッコ)流域では最近、新たにワイヤーフェンスが設置されたという。しかし、それでも危険を冒して中国と行き来する人はおり、食料などを調達して帰国した人を通し、北朝鮮でも新型コロナウイルスの感染が広がっていると考えられている。
北朝鮮政府は当初、感染者も長い間ゼロだとしてきた。しかし7月下旬、韓国との国境に近い開城(ケソン)で、韓国から戻ってきた脱北者の男性に感染の疑いがあるとして、開城を完全封鎖する措置を取った。しかしオープン・ドアーズによると、開城ではすでに複数の感染事例が報告されており、脱北者をスケープゴートにしたと指摘する声が多くあるという。
オープン・ドアーズの推定では、北朝鮮には20万~40万人のクリスチャンがおり、そのうち5万~7万人が強制収容所に収容されている。収容者は拷問や飢え、長時間労働に苦しめられ、多くが命を落とす。その劣悪な環境では、新型コロナウイルスだけでなく、あらゆる種類のウイルスがいつまん延してもおかしくない。
北朝鮮の地下教会で信仰を守る信者は、サイモンさんのチームに次のように語った。
「民衆を苦しめているのは、新型コロナウイルスやロックダウン、食料不足、物価の高騰だけではありません。大雨や土砂崩れに加え、猛暑にも襲われています。北朝鮮の人々にとって今年は本当に苦しいです」
サイモンさんのチームは、食料や医薬品、防寒着、その他の必需品を用意し、中国のネットワークを通して北朝鮮のクリスチャンたちをサポートしている。
「しかし、まず神様に扉を開いていただかなければなりません。人々が(北朝鮮から)出国できさえすれば、私たちは彼らが生きていくための手段を提供できます。最近、わずかな援助をする機会がありました。私たちは次の機会を待っているところです」
オープン・ドアーズは、キリスト教徒への迫害がひどい50カ国をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト」(英語)で、北朝鮮を19年連続でワースト1位にしている。オープン・ドアーズによると、北朝鮮では聖書を所有しているだけで、本人だけでなく家族も殺されたり、強制収容所に送られたりする可能性がある。