太平洋戦争末期の沖縄戦の戦没者を悼む「慰霊の日」の23日、日本カトリック司教団は戦後75年の平和メッセージ「すべてのいのちを守るため―平和は希望の道のり―」をカトリック中央協議会の公式サイトで発表した。司教団は平和メッセージで「世界は今、新冷戦、東アジアの不安定な情勢、核の脅威、地球環境の危機などが予断をゆるさない状況」と危機感を示し、昨年訪日したローマ教皇フランシスコの言葉を引用しつつ、戦争放棄と恒久平和をあらためて訴えた。
司教団による平和メッセージはこれまで、戦後50年、60年、70年の節目で、その時々の国内外の情勢に鑑みながら発表されてきた。戦後75年の今年はこの日、沖縄での平和巡礼に参加する予定だったが、新型コロナウイルスの影響で中止を余儀なくされた。司教団は「心は常に沖縄の人々とともにありたい」とし、「沖縄に建つ戦争犠牲者に対する慰霊と不戦の誓いの原点である魂魄(こんぱく)の塔に想いを馳(は)せ、平和についての私たちの考えを述べ、これからの行動指針としたい」と述べた。
沖縄本島南部の糸満市にある「魂魄の塔」は、もともとは住民が遺骨を収集してできた骨塚だったが、やがて沖縄の戦争犠牲者に対する慰霊の原点と見なされるようになり、さらには「名もないごく普通の人々の反戦平和への希求の原点、不戦の誓いの原点ともなっている」と紹介。沖縄県平和祈念資料館の出口に刻まれている「むすびのことば」を引用し、「戦争、基地、軍備増強に反対する沖縄の人々の切実な叫びは、『戦争というものはこれほど残忍でこれほど恥辱にまみれたものはないと思う』に至った沖縄戦の体験からきている」と強調した。
その上で、「こうした沖縄県民の信条の訴えにもかかわらず、この沖縄を『捨石』とした扱いは75年を経てもなお、その自己決定権を無視するという事実をもって脈々と続けられています」と指摘。「あらゆる戦争を憎み、命を大切にしようとする沖縄県民の訴えに応え、今日、『魂魄の塔』に思いを馳せて、すべての戦争犠牲者のために祈りをささげつつ、平和希求への決意を新たにし、行動を起こしましょう」と訴えた。
非核化については、教皇フランシスコが昨年、長崎で「教会は、核兵器禁止条約を含め、核軍縮と核不拡散に関する主要な国際的な法的原則にのっとり、飽くことなく、迅速に行動し、訴えていくことでしょう」と語った言葉を引用。この発言に呼応して、日本カトリック司教協議会が昨年12月、安倍晋三首相宛てに核兵器禁止条約への署名・批准を求める要請を行ったことなどに言及した(関連記事:核兵器禁止条約に署名・批准を 教皇訪日受け司教協議会が安倍首相に要請)。
また、今年が朝鮮戦争開戦70周年に当たることにも触れ、「同じ民族が戦うという悲劇も、35年に及んだ日本による朝鮮統治政策と無関係ではありません」と指摘。「こうした過去としっかりと向き合い、将来に対する責任を担い続ける決意を新たにする」とした。
今年の「世界平和の日」のメッセージで教皇フランシスコが、平和への歩みは「障害や試練に直面する中で歩む希望の道のり」であり、たとえ克服できそうもない障害に直面しても、「私たちを踏み出させ、前に進む翼を与えてくれる」希望の徳をもって、「神という共通の源に根差した、対話と相互信頼のうちに実践される真の兄弟愛を追い求めなければなりません」と語ったことに言及。「教皇フランシスコの日本訪問によって私たちが頂いた平和への意志と希望に、イエス・キリストの復活のいのちと聖霊の息吹が豊かに注がれますように」と祈り求めた。