1992年の「天使にラブソングを」以降、日本で巻き起こったゴスペルブーム。21世紀に入り、ブームは下火になったかと思われたが、実情はそうではないようだ。7月6日に滋賀県大津市の生涯学習センターで行われた「第2回ユニオン・ゴスペル・フェスティバル」。そこに20組を超えるクワイアが出演した。集まったのは、熱い熱いゴスペルフリークの皆さん。ゴスペル大好きを自他共に認める数百人が皆で歌い、米アリゾナ州から来日したゴスペル歌手チャリティ・ロックハートさんの歌声に酔いしれたのである。ゴスペルファンが集まった会場が盛り上がったことは言うまでもない。
さらにその翌日7日には、大阪府八尾市にあるグレース宣教会(藤崎秀雄代表牧師)のグレース大聖堂で、ロックハートさんの単独コンサートが行われた。特筆すべき点は、前日のフェスティバルとは異なる客層が集まったということである。ほとんどが「ゴスペルビギナー」であった。そもそも、英語の歌を聴いたことがない。または、それほどゴスペルという楽曲に興味がない。そんな人たちが集まるコンサートに、主催者のグレース宣教会は一抹の不安を覚えたであろう。しかし、ふたを開けてみると、前日のゴスペルファンの祭典に勝るとも劣らない盛況ぶりであった。500人近い来客があり、しかも心が震えるゴスペル、まさに「福音の調べ」が会場に、そして人々の心の中に響き渡ったのである。ここでは、7日のコンサートの様子をレポートしたい。
まず今回の企画は、筆者からグレース宣教会へ持ち込まれたものである。前日のフェスティバルが土曜日であったため、日曜日はどうするのかをロックハートさんに確認したところ、予定はないとのこと。そこで早速、彼女を米国から招いた団体から許可をもらい、その後1週間お世話することになった。4月の段階で動き出したため、かなりタイトなスケジュールとなったが、「地域のため、若い方のため」ということで、グレース宣教会がお受けくださったのである。
しかし、上述したようにゴスペルビギナーや、久しぶりにゴスペルを聞くという人の来場が予想された。そこで一計を案じ、いわゆる伝統的な賛美歌(Amazing Grace や His Eye on the Sparrow など)から、ロックハートさんのおはこであるホイットニー・ヒューストンやアレサ・フランクリンの楽曲、果てはディズニー・ソングまで、さまざまなジャンルの楽曲でコンサートを構成することになったのである。
だが、それだけでは「単なるコンサート」となってしまう。だから今回はロックハートさん自身の「ライフストーリー」を語ってもらうことで、いかに神様が彼女の人生に恵みを与えてくださったかを伝える企画になっていった。通常、牧師が語る説教を、彼女の歌と証しでより具体化しようという試みであった。
そして迎えた当日、天候が良好なこともあり、開場時間の1時間前から少しずつ人が集まり始めた。そして外に列ができ始めたため、急きょ開場時間を早めて人々を場内へ誘導することになった。驚くべきことに、開演の30分前にはほぼ席が埋まってしまったのである。それを見た教会の男性陣は、礼拝堂の後ろの扉を外しにかかった。私は「これ外れるんだ!」とびっくり。しかし教会の人たちは、慌てる様子もなく、事もなげに扉を除き、受け付けスペースだったところに椅子を並べ始めたのである。大教会ならではの光景に、ロックハートさんも大喜び。そして、開演時間となった。
開演に先立って、八尾市の大松桂佑(けいすけ)市長があいさつしてくださった。こうした地域との連携も新鮮な驚きである。その後、ロックハートさんが登場し、静かに「一羽の雀(すずめ)さえ」を歌い出した。ピアノ奏楽は、自身もゴスペルの指導をされるMOMOさん。一曲歌い上げただけなのに、場内からは割れんばかりの拍手が沸き起こった。
ゴスペルを歌いながら、その合間に曲に関連する自分の証し(ライフストーリー)を挿入していくというやり方は、聴衆の心をつかむ最も良い方法の一つである。特にロックハートさんの場合、現在の華やかな風貌からは想像もつかないほど壮絶な人生(DV、離婚、ホームレス生活など)を通ってきている。私も何度かその話を伺っているが、やはり何度聞いても「神様はすごいな」を思わされる。ちなみに、彼女のエピソードをまとめた『私がそう言ったから』(キンドル版、無料)がアマゾンから発刊されている。
証しと歌を交えてたっぷり2時間。本当に「満腹」のコンサート、そして「伝道集会」であった。翌週、ある人がこんな感想を語ってくれた。
「いろいろ悩みがある中、コンサートにやって来ました。歌を聞いていても頭の中では嵐が吹いているだろうな、最初はそう思っていました。でも、ロックハートさんのゴスペルを聞き続けるうちに、なぜか心が晴れてきました。涙がとめどなくあふれてきました。そして会場を後にするころには、私にも神様がついておられるのだ、と思えるようになりました」
チャリティ・ロックハートさんは、来年も来日を計画しているという。
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