イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」からの迫害を逃れて、ナイジェリアから米国に渡り、家族と共に難民として暮らすキリスト教徒の少年、タニトルワ・アデウミ=愛称・タニ=君(8)が、米ニューヨーク州のチェス大会で優勝した。
タニ君は現在、ニューヨーク市マンハッタンのホームレス用シェルターで家族と暮らしている。チェスを始めてからまだ1年余りだが、今月出場したニューヨーク州のメジャーなチェス大会で、自分よりも裕福な競合相手を次々と破り、幼稚園から小学3年までの階級で見事「チェス王者」に輝いた。「僕は最年少グランドマスター(チェス選手の最高位)になりたい」と夢は大きい。
タニ君の優勝は、ニューヨーク・タイムズ紙(英語)でも取り上げられた。それによると、タニ君一家は2017年、キリスト教徒を狙ったボコ・ハラムによる長期的なテロ攻撃のためにナイジェリアから逃れてきた。「愛する者たちを失いたくありません」。父親のカヨデさんはそう言う。一家の亡命申請はまだ保留中で、8月に面談が予定されている。
ボコ・ハラムについて、世界60カ国で活動するキリスト教迫害監視団体「米国オープンドアーズ」(英語)は、次のように報告している。
「多くの場合、このような暴力は人命の喪失や身体的な負傷、ならびに財産の喪失をもたらします。暴力の結果として、キリスト教徒も土地や生計手段を失います。ナイジェリア北部、特にイスラム法が敷かれている州のキリスト教徒たちは、二級市民として差別や排除の対象にされます。イスラム教から改宗したキリスト教徒も家族から拒絶されたり、信仰を捨てさせようとする圧力に直面したりします」
2018年には、6千人余りのキリスト教徒がボコ・ハラム系のイスラム過激派や、イスラム教徒が多いとされる遊牧民フラニ族に殺害されたり、大けがを負わされたりしている。一方でナイジェリア政府は、これらの反キリスト教テロを野放しにしていると指摘されている。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、タニ君は両親や兄と共に1年余り前にニューヨーク市に移り住み、ある牧師が一家をホームレス用シェルターに紹介したという。間もなくタニ君は、市内の第116公立小学校に通い始め、そこでパートタイムの教師からチェスを教えてもらった。母親のオルワトインさんの理解もあり、タニ君はチェスクラブにも参加するようになる。
第116公立小学校でチェスのプログラムを担当するラッセル・マコフスキーさんによると、1年前に最初のチェス大会に出場した際、タニ君のレーティングは全参加者の中で最も低い105だった。
しかしそれから、タニ君は劇的な成長を遂げた。現在のレーティングは1587で、今も上がり続けている。世界チャンピオンのマグヌス・カールセンさん(28)の現在のレーティングは2845だ。
第116公立小学校ではタニ君の激励会を開き、ジェイン・シュー校長はタニ君の勝利を歓迎し、「これは、人間というものが人生の困難で決まらないことを示す顕著な事例です」と語った。
タニ君一家には今、住む家がない。しかし、両親はタニ君の将来のために懸命に努力している。父親のカヨデさんは2つの仕事を掛け持ちし、母親のオルワトインさんは最近、在宅医療補助者となるための課程を修了したという。
カヨデさんは住居取得のため、クラウドファンディングサイト「ゴーファンドミー」(英語)で募金活動を始め、26日現在で約4700人から約24万5千ドル(約2700万円)に上る寄付金が寄せられている。
「私はこの家族を歓迎します。この少年の才能を伸ばしたいという願いから、私はこの一家を支援します。感動的で力強いこの一家は、この国が移民を歓迎することで建てられ、社会に莫大な益をもたらしていることを示す実例です」と、寄付者の一人はコメントしている。
タニ君は、女優のオリビア・ワイルドからも支援を受けた。ワイルドは23日のツイートで、次のように述べている。「私はたった今、タニ君一家の家探しを支援するゴーファンドミー・キャンペーンに寄付しました。皆さんも、どうぞご参加ください」