2012年に2回目の来日となったクライストチャーチクワイアのメンバー。彼らへの特別なお願いとして、音楽や英語好きな大学生との泊まり込み合宿に取り組んでもらいたい、というものがあった。
当時、同志社大学の学生やその関連にある方が教会に多かったため、滋賀県にあるリトリートセンターを借りて、1泊2日ほぼ24時間を音楽漬けで過ごす企画を用意した。クワイアメンバー20人に加えて、同志社大学の軽音楽部、ゴスペルクワイアなどのサークルに属している皆さんに参加を呼び掛け、施設にある音楽室を貸し切りにして、歌ったり演奏したりする濃密なひとときを持とうという企画であった。
ここだけの話、同志社大学の学生、関係者ならその施設の利用はとてもリーズナブルである。その利点を用いて、費用を安く抑えた企画にすることができた(今もこれが適用されるかどうかは分からない)。
まず教会から機材を持ち込んだ。音楽室にはグランドピアノとマイクはある。それ以外の楽器とPAシステム、具体的には、スピーカー、モニタースピーカー、キーボード2台、PA卓、マイク3~4本、そして電子ドラムである。ギター類は各自のものを持ち込んでもらった。
セットアップとサウンドチェックを午前中に済ませ、午後からクライストチャーチクワイアには来てもらった。着いてすぐは、学生たちがぎごちなかった。やはりあこがれのプロミュージシャンたちが目の前にいるのだから仕方ないことだろう。だがその雰囲気を察知したクリス氏ら主要メンバーは、学生たちに向かって「楽器持ってきた人、いる?」と気軽に声掛けしてくれた。すると簡易キーボード、トランペット、フルートなどを持ってきた数人の学生が手を挙げた。
「じゃあ、彼らのラインを確保してくれる?」。なんと急きょチャンネルを増やし、彼らとのコラボを始めようというのだった。ダイレクトボックスも持って行っていたので、シールドだけ増やせば事足りた。
そして、クリス氏がこう質問した。「何か歌ってみたい曲ある?」
ここで一気にみんなの雰囲気が爆発した。つまり、当代一流のミュージシャンと共演でき、しかも生カラオケ状態で好きな歌を歌えるというのだ。それはゴスペルに限らず、洋楽全般を意味していた。
1人の学生が手を挙げ「スティービー・ワンダーのスーパースティション」と告げた。するとクリス氏はいきなりキーボードに向き直り、イントロを弾き始めた。それに合わせてドラムとベースが入り、クワイアメンバーが立ち上がって体を左右に揺らし始めた。
「さあ、君の番だ!」。先ほど曲をリクエストした学生にマイクを手渡す。そして――世界で一番ゴージャスな「ナッシュビル生バンドによるカラオケ大会」が始まったのである!
それから夕食までの4時間半、この豪華カラオケ大会は継続された。マイケル・ジャクソン、ビートルズ、マドンナ、ジャスティン・ビーバーなど、日本でも有名な洋楽が次々と奏でられていった。彼らは楽譜なしでほぼ完ぺきな演奏をし続けてくれた。合間にゲストシンガーが自分の持ち歌を歌ったり、皆で音楽に合わせてダンスしたり(メンバーの1人はプロのタップダンサーだった)することで、一気に雰囲気が和んだことは言うまでもなかった。
その時の様子がこちら。
夕食を食べた後、ゲストミュージシャンたちの奏楽によるワーシップタイムが持たれた。ジェロン・デイビスさんのリードで、次々とCCMが奏でられていく。そして、クワイアメンバーに促され、学生たちも立ち上がり、中には手を挙げてワーシップに主体的に参加する者たちも現れてきた。
ここで私がメッセージを語る。ここだけは日本語で、学生たちに分かる話をしないといけない。とはいえ、詩編から歌に関する内容を取り上げ、これを福音につなげていく。
その後、少々大胆だが皆で祈る時間を取った。もちろん、今回の合宿に参加して初めて「キリスト教」に触れた学生たちも複数いる。だがそんな彼らにも祈りをしてもらった。最初はどうなるかとかなりひやひやした。だが、祈りが続くにつれ、驚くべきことが起こってきた。
それは、見よう見まねで祈りのポーズをとっていた彼らの中から、本気で祈り始める者が出てきたことである。ある者は涙を流し、ある者は声を出して・・・。そういった彼らのために、クワイアメンバーが共に手を置いて祈ってくれた。
集会時間は当初60分を考えていたが、いつしか2時間を超えていた。そして11時近くになってやっと「お開き」になったのであった。
翌日、ある学生が私のところにやってきた。彼とは今回のクライストチャーチ来日を機に、いろいろ話をするようになっていた。
「僕はキリスト教とか、クリスチャンとかと出会ったことがなかったので、今まで誤解していました。宗教というと、なんか危なくて、近寄りがたいと思っていました。でも今回、彼らと触れ合うことで、はっきり分かったことがあります」
私が「どんなこと?」と尋ねると「彼らはウラオモテなく、ほんとに信じているんですね、神様を。僕はそんな生き方がカッコいいと思うようになりました」
この言葉が聞けただけで、私は感動した。「ゴスペル合宿」、大成功であった。
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