2012年の来日メンバーの中に、ひと際異彩を放つ人物がいた。彼女の名はアンジェラ・プリム(これ以降、アンジーと表記)。写真に写っているその姿から、ただものではない感じがありありと分かる。クリス氏に彼女のことを聞いてみた。
すると、前回紹介したジェロン・デイビス師と共に全米各地を回ることが多く、あのシーシー・ワイナンズとも長い付き合いがあるとのこと。そして、クライストチャーチの礼拝でのある動画を送ってくれた。それが、これである。
私たちの期待は高まるばかりだった。実際彼女に会ってみて、シンガーとしても信仰者としても私たちの予想をはるかに超える存在であることが分かった。まず、関西空港で出迎えたときから、常に「ハッハッハ」と笑い声を絶やさない。そして、あの大きな体(失礼!)でギューッとハグしてくれるのである。それだけで出迎えに行ったあるメンバーは涙を流していた。後から聞くと、いろいろ悩んでいたことがあったのだが、彼女に抱きしめられたとき、どうしてか分からないけど涙が出てきたのだという。
また、クライストチャーチのメンバーの誰かが何か言うと、すぐに合いの手を入れ、皆がそれを聞いて爆笑する、ということがたびたびあった。残念ながら何を言っているのか、私の英語力では細かいところまでは分からなかったが、長時間のフライト後であるにもかかわらず、彼女の存在が来日メンバーを和ませていたことは間違いなかった。
最大の衝撃は、来日2日後にやってきた。どこかのレストランで昼食を終えた後、私たちは本ツアー最大のイベントとして、京都の真ん中にあるショッピングモールで復興支援コンサートを行うことになっていた。その会場へ向かう途中、私とアンジーは隣に座ったため、いろいろとお互いのことを自己紹介しあうことになった。
その中でアンジーはいきなりこんな質問をしてきた。「ところで、日本ではホイットニー・ヒューストンは有名なの?」
2012年といえば、彼女がグラミー賞の前に亡くなった年である。「とても有名ですよ。でもどうして?」と私。「私はホイットニーと同じ教会の聖歌隊で歌っていたの」
おお! そんな間柄だったとは! びっくりしている私に彼女はこう付け加えた。「米国のマスコミが流しているホイットニーの情報は間違っているわ。彼女は本当に神様を愛していたの。だから私は今日、彼女にささげるために歌いたいんだけど、ホイットニーの曲で日本人がよく知っているのは何かしら?」
私は思わず「ボディーガードの主題歌やってください! アイ・オールウェイズ・ラブ・ユー!」とバスの中で叫んでしまった。
それからが大変だった。クライストチャーチのミュージシャンたちはアンジーを中心に何やら相談していた。趣旨を彼女が伝え、ある者はユーチューブで音源を確認し始めた。ピアニストのクリスはなにやら紙に書き始めた。それから数十分後、アンジーから「歌えます」と回答をいただいた。クリスが手書きしていたのは、楽譜というより何かの暗号みたい(すいません、その分野に私は素人でして・・・)な記号の集積だった。
会場はほぼ360度から見られるようになっている円形のステージで、正面には液晶ビジョンも用意されていた。そこで彼らはリハーサルを始めた。本番もリハも全部、衆人環視のもとで行わなければならなかった。でも結果的にこれが功を奏することになる。
今までもその会場で音楽イベントが行われたことはあったが、まずそのサウンドが桁違いだった。しかも歌い手が全員外国人(そしてアフリカ系米国人が数人)。これで目立たないはずがない。
さらにアンジーがリハで「アイ・オールウェイズ・ラブ・ユー」を歌いだすと、モールで買い物していた人々は足を止め、中にはお店からわざわざ出て来て彼女の歌を聴こうとする者まで出てきたのである。一瞬で3階建て建物通路は人でいっぱいにあふれてしまった。
簡単なさわりだけ歌っただけなのに、彼女が歌い終わると拍手が会場に鳴り響いた。すかさず募金部隊を送り出し、またこのイベントの主旨を説明するアナウンスを入れる。すると多くの方が買い物を中断し、1階に用意した椅子に座り始めたのであった。
そして、復興支援コンサートは始まった。初めから大きな盛り上がりがあったが、特にアンジーがソロでホイットニーの曲を歌ったときが最高に盛り上がったことは言うまでもない。その時のアンジーの歌はこちらから。
その後、私は学生たちを連れて9月下旬にナッシュビルへツアーしたが、その時アンジーはテレビの歌番組のトリで登場し、インタビューを交えながら数曲歌っていた。それを見るだけでも、彼女がどのくらいのシンガーかが分かる。
実はとんでもない大物、大御所が福音宣教のために来日してくれていたのであった。
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