楽しく過ごした2011年のナッシュビルツアー。滞在した10日間もいよいよ終盤を迎えた。水曜日のクワイア練習を最後のプログラムとして、いよいよ帰国の途に就くこととなる。皆、それぞれがいろんな刺激を受けることができたようだ。
最後の日の午後、フランクリンという町へ出掛けたが、そこで1つ参加者の学生たちに課題を出した。それは、クワイア練習後に行われる送別会で、英語でスピーチをしてほしいということ。
日本人はどうしても「私、英語が話せないんです」と言う傾向にある。確かに文法と長文読解は鍛えられるが、日本に居ては、リスニングとスピーキングを鍛える機会はほとんどない。だからこそ、こういった機会を有効に用いてもらいたいということで、1人ずつスピーチすることを課したのであった。
皆、電子辞書を片手に、休憩時間などにメモを書き始めていた。お土産の購入を早々に切り上げ、皆で固まって相談し始めたのである。
やがてクワイア練習がスタートした。通常は午後6時半から8時半までだが、今回は私たちのために1時間で切り上げ、そのあとは別室での送別会となる。ここまでしてくれるクライストチャーチになんとお礼を言ったらいいか、と思わされた。
振り返ってみると、ほんの半年前まではネットで見るだけであった教会と、今はこうして楽しく歓談できるような関係が生まれたのである。これは主の導きといわずして何というか。その間に私は3カ月ごとにナッシュビルへやって来るという、本当にあり得ない恵みにあずかっている。
すでにクリストファー氏とは、来年のことを話し始めていたため、来日は8月下旬から9月にかけてということが決まっていた。その後、1、2週間して今度はこちらから学生を連れてのナッシュビルツアーということになる。2012年度以降も交わりを継続することが確定していた。
震災を機に出会うことができたが、これを単に自分たちだけの特権とするのはあまりにも出会った存在が大きすぎる。やはり、御言葉の通り「受けるより、与える方が幸い」と受け止めて、日本宣教のために彼らを存分に用いさせていただきたい、と主に祈りをささげた。
あれこれと過ぎし半年間を振り返っているうちに、送別会がスタートした。見るとわきのテーブルに私たち一人一人のネームタグが置かれており、その後ろにクワイアメンバーが思い思いのプレゼントを置いてくれていた。その多いこと!実は事前に荷物整理をし終えていたのだが、もう一度ステイ先で調整しなければならないくらいのものすごい量であった。
皆で祈り、そして会がスタートした。まずは日本にツアーメンバーとして参加したクワイアの方々が体験談(証し)を話し、それから語り合うひとときとなった。提供された茶菓はアイスティー、ムーンパイ、それからケーキなど。すべて甘い!
実は私だけ特別にある方がイタリアンコーヒーを淹れてくれていたため、スイーツ地獄(?)から解放されることとなったが、学生たちは皆、甘さをペットボトルのミネラルウォーターで何とかごまかしていた。
さて、最後のスピーチの時となった。クライマックスである。皆、緊張した面持ちで壇上へ。しかし言葉を発し始めたとき、皆しばし涙があふれてきて、次の言葉を継げなくなってしまった。そしてある者は原稿から離れて、自分の英語で感謝を語り出した。そこまでの英語力がない者たちは、必死に用意した原稿を読もうとし、また涙し、そして読み続けるということになった。
聞いてくださっている教会の方々は皆感動し、ある者は祈り始める方もおられた。こういった海外との交わりが生まれたことを、神に感謝しているのだろう。
私も同じように語った。特に私の場合は、こういった交わりを生み出した者の1人であるため、非常に濃い半年間が走馬灯のようによみがえってきた。当然、涙する。
初めてこの教会を訪れた時の不安、相手をしてくれたオースティン師とクリストファー氏、さらに時間を取って話を聞いてくれて、クワイアを送ることを決断してくれたダン先生。5月に来日し、文字通り命を削って日本のためにささげてくれたモリース氏・・・。
彼らのことを思うと、私も涙で自分が何を言っているのか分からなくなってしまった。気が付くと壇上から降りていて、皆に囲まれ、最後の別れを惜しんでいた。
感動的な会が終わり、ステイ先に帰る段になって、驚くべきことが起こった。それは積み上げられたお土産の隣に、なんとスーツケースが置かれていたのである!びっくりして尋ねると「スーツケースごとあげる」とのことだった。
何と、お土産だけのために、新たにスーツケースを新調し、それごと持って帰っていいというのである!びっくりしている私たちの横で、クリストファー氏がこう言った。
「これが『南部的おもてなし』(サザン・ホスピタリティー)さ」
米国南部の方はよくこの言葉を口にする。北部の人が杓子定規にきっちりとしていることを自慢するように、南部人は相手のためにあえて寛容になることを美徳としている。これを「南部的おもてなし」という。飛行機に乗せるスーツケースには重量制限がある。ロスやニューヨークで重量オーバーすると、その場でスーツケースを開いて荷物の入れ替えをしなければならなくなる。
しかし、ナッシュビルでそれをさせられたことはほとんどない。大抵は付き添ってくれたクリストファー氏が「南部的おもてなしでお願いします」と口添えしてくれる。すると係の方が「分かりました」と言って多少のオーバーであれば見逃してくれる。そんな粋な計らいがナッシュビルにはあるのだ。
彼らの思いやりに包まれて、私たちは無事に帰国することができたのであった。
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