2012年に来日したクライストチャーチクワイアのメンバーの中に、特筆すべき方々が多くおられた。前回はアンジェラ・プリムさんを、前々回はジェロン・デイヴィスさんを取り上げた。そして今回は、満を持してジェン・クライダーさんについて詳述したいと思う。
ジェンさんは、2012年来日当時は独身で、名字は「クライダー」であった。幼き頃から音楽一家の下で育ち、そのまま歌うことを生業とするようになっていったという。そして、最も大きな影響を彼女に与えたのがお母さんであった。グラミー賞受賞5回という前人未到の記録を持ち、80年代から現在までゴスペル界をけん引してきた第一人者と言ってもいい彼女のお母さん、その人物は、サンディ・パティである。
この名前を聞いて「おお!」となるか、それとも「それ誰?」となるかによって年代が分かれるだろう。とはいえ、米国においてはいまだに多大な影響を持つゴスペル界の大御所である。
しかし、ジェンさんはそのことをまったく気にしていない。少なくとも私たち(40代以上のクリスチャン)が、彼女がサンディ・パティの娘さんだと分かってあたふたしてしまっても、まったく動じることなく、「お母さん=サンディ・パティ」について、あれこれと楽しく話してくれた。
例えば、お母さんは家族を痛めるという悲しい経験を通して、本当に子どもたちを今まで以上に愛するようになったとか、毎年行われるクルージングには必ず家族で参加して、一緒のステージに立つのだとか・・・。そして何よりも、信仰者の姿勢としてこの世で一番尊敬しているのが他でもない、お母さんである、と語ってくれたのである。
日本でよくある「二世タレント」的ないびつさがまったく感じられない。そして、歌を通して教会に仕えることを決心したとき、一番喜んでくれたのがお母さんであったという話を涙ながらに語ってくれた。
同時に、とても歌がうまい。大学時代からその頭角を現し、クライストチャーチでは現在でもワーシップリードを担当している。彼女の声を聴くと、多くの方が「お母さんそっくり!」と驚嘆する。私もその一人だが、単にそれだけではない。
2012年の来日の時、クリス氏にお願いしたことが「『天使にラブソングを』シリーズの楽曲を、そのまま再現してほしい」というものだった。それを受けて、ジェンさんは「ジョイフル・ジョイフル」を映画バージョンで練習し、仕上げて来てくれたのである。
こちらがその動画である。後半は、前回紹介したアンジーさんがソロをしている。生まれて初めて本場のゴスペルシンガーたちによる「ジョイフル・ジョイフル」を聴けた会場の人々は、最高に幸せだった。
それに加え、日本語の楽曲も彼らクワイアには歌ってもらいたかったので、ジェンさんに私が個人的に発音指導をし続けたことがあった。スカイプで、1回1時間から1時間半。ひたすらに日本語の歌の発音を練習してもらったのである。
さすがはシンガーだろう。大体1時間くらい一緒に練習するだけで、ほぼ完ぺきに歌詞を覚え、歌うことができるようになるのである。そして翌週、来日するメンバーに今度は彼女が指導して、クワイアとして歌えるようにするのであった。
このパターンで、毎年3、4曲の日本語の歌を歌うことをお願いしたので、トータルするなら、私は彼女と数十時間スカイプをしたことになる。ジェンさんはこの地道な練習に、いやな顔一つせずに向き合い、そして素晴らしい結果を常に日本へ届けてくれた。
その成果は、ナッシュビルにも大きな彩りを与えたようである。その年のクライストチャーチでのクリスマスコンサートで、ジェンさんが子どもたちに日本語の歌詞を指導し、こんな感じで仕上がったと報告を受けた。
音楽的なスキルに加え、やはり20代前半ということで学生や若者たちとすぐに打ち解けることができた。そして彼女との交わりを求めて、多くの新来会者たちが教会やコンサートにやってくるようになった。
ジェンさん曰く、自分の叔母さんがかつて九州で宣教師をしていたことがあったので、昔から日本には興味とあこがれを抱いていたそうである。尊敬するアン叔母さんのように、自分が福音宣教のために用いられることが本当に光栄である、と語ってくれた。
このようなスーパースターたちに囲まれながら、2012年のツアーは順調に進められていった。石川県金沢市を皮切りに、京都、大阪などの関西圏を中心としたツアーとなった。加えて、ここに新たな試みが加えられた。それが「ゴスペル合宿」である。
これについては次回、報告したいと思う。
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