小さな本です。しかし、今まで知らなかった事柄を教えられ、今後のクリスチャントゥデイの記事の在り方の一面について示唆を与えられています。
最も基本的なこととして、「ファクトチェック」とは何か。そこに基づくファクトチェック記事とは何か、その特徴はいかなる点にあるかなど、初歩的ですが最も基礎となることを確認しました。このささやかな学びの応答として、今後クリスチャントゥデイとしてどのような対応をなすべきか、その一歩を踏み出す機会となりました。
確かに、今までファクトチェックやファクトチェック記事について直接知識を持っていませんでした。しかし同時に、聖書を読み、解釈する営みを継続する中で、特に聖書解釈を教え続けてきた経験の中で学んできたことが、今直面している課題と深く根底的な関わりを持つ事実を確認しています。
そうです、聖書解釈学を教え続ける中で、理系の視点の方法論的活用を一冊の新書版を通し紹介し続けてきました。木下是雄著『理科系の作文技術』(中公新書624)です。事実と意見の明確な区別と関係を、木下教授は一貫して強調します。特に、第7章「事実と意見」(101~117ページ)。
聖書を解釈する営みにおいても、さらにそこから聖書のメッセージを宣教する説教においても、事実と意見の明確な区別。それは有効な自覚を与え、実践へと導いてくれます。この聖書解釈と説教の営みにおける目に見えるしるしは、「・・・思います」との表現を極力省く、それなりに徹底した戦いです。
聖書テキストに見る事実とそれをめぐる仮説との峻別、その上で事実を言葉化する営み。この営みのために受けてきた訓練と教育の経験が、今直面している課題、ファクトチェックとファクトチェック記事を理解する助けとなり、鍵の役割を果たしてくれています。
ファクトチェック記事とは何か。報道される情報が事実に基づいているかどうか、記事の正確性を検証する(第1章「ファクトチェックとは」)。あえていえば、ニュース性より事実に着目するのです(9ページ)。
本書では、ファクトチェックは誰にでもできる「あまり難しい作業ではない」と励ましつつ(19、20ページ)、第2章で基本ルールの紹介をなしています。確かに、そこに提示されているのは、特別な技能というより非党派性や公正性を重んじ、「言説の真偽について読者が自ら判断できるよう、必要十分な根拠情報(エビデンス)を提供」する姿勢と営みの必要性です。
第3章では、ファクトチェックをめぐる国際的な潮流の報告がなされています。それとの対比で、第4章では日本での実情が提示され、ファクトチェック記事への勧めがなされます。その際、「ファクトチェックは、情報量に制約がないデジタル版でこそ本領を発揮できる」と私たちに力強い励ましを与えてくれています。
ファクトチェックやファクトチェック記事の根底にあるのは、「事実は大事だ」(66ページ)との確信です。クリスチャントゥデイも、小なりとはいえファクトチェックへの参加、そうです、ファクトチェック記事の掲載を通して、事実を大切にする社会実現へ参与したいのです。
一般記事とは異なるファクトチェック記事掲載への備えを、クリスチャントゥデイなりに進めていけるようにお祈りいただければ感謝です。
■ 立岩陽一郎、楊井人文著『ファクトチェックとは何か』(岩波書店、2018年4月)
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