聖書協会世界連盟(UBS)は、世界の聖書翻訳の状況をまとめた2017年の年次報告書(英語)を発表した。最新となる同報告書によると、世界の各聖書協会は昨年、49言語(話者5億8千人)で聖書翻訳事業を完成させた。そのうち20言語(同1400万人)では聖書が初めて翻訳され、さらにそのうち7言語では新旧約そろった聖書全巻が完成した。この他、手話訳聖書や点字聖書の事業も世界中で行われており、近年の技術革新に伴う聖書のデジタル化も進んでいる。
報告書によると、昨年はモザンビーク、ミャンマー、南スーダン、台湾、トルクメニスタン、ベトナムで使用されている7言語で新旧約聖書が完成した。また4言語で新約聖書が完成し、9言語で初めて聖書の一部が翻訳されるなど、計20言語で各言語初となる翻訳聖書が誕生した。
すでに聖書が翻訳されている言語でも、時代に合わせた新しい翻訳の作成や改訂が行われる。昨年は2言語で新旧約聖書、8言語で新約聖書、7言語で聖書の一部が、新しい訳で出版された。また9言語で改訂版聖書が出版され、スタディ版聖書は7言語で9つ出された。
聴覚障がい者のための手話訳聖書の翻訳も世界で行われている。しかし、新旧約聖書すべてが手話に訳された例はまだなく、アメリカ手話(ASL)で間もなく新約聖書が完成する状況だという。報告書によると、世界には400以上の手話が存在するが、そのうち聖書が一部でも手話に訳されているのは1割程度しかない。手話を第1言語とする人は世界に7千万人いるとされている。聖書の手話翻訳は現在、世界で26事業が行われており、さらに新たに10事業が計画、あるは準備段階にある。これらが完成すれば、1290万人の聴覚障がい者に手話で御言葉を伝えることができるという。
視覚障がい者のための点字聖書の製作も行われている。UBSによると、世界には約2億8500万人の視覚障がい者がいると推定されており、このうち4千万人はまったく目が見えない全盲。点字聖書は44言語で新旧約聖書が完成しており、聖書の一部だけが完成しているのは200言語以上と、手話訳聖書よりも進んでいる。
しかし、点字聖書は新旧約全巻になると40冊以上の分量となり、印刷費用も1つ当たり600ドル(約6万4千円)近くになる。音声聖書も普及しているが、点字聖書の需要は依然として高い。UBSは、点字聖書は視覚障がい者が聖書を深く読む最も効果的な方法だとしている。昨年は27の聖書協会で点字聖書に関わる事業が行われ、ガンダ語(ウガンダの主要言語)とカシ語(インドのカシ族の言語)の2言語で、一部ではあるものの初の点字聖書が製作された。
UBSは、各言語の聖書を電子データで保存し共有する「デジタル聖書図書館」(DBL、英語)を、デジタル戦略の柱としている。2033年までに世界のすべての言語の聖書を電子データで保存することを目標としており、テキストデータは昨年までに1269言語1735訳が集まった。また、音声データは前年と比べて3倍も増え、732言語1078訳が集まった。DBLに保存された聖書のデータは、米国聖書協会が運営する聖書検索サービス「BibleSearch」(英語)や無料聖書アプリ「YouVersion」などを通して、すでに世界中の人々に提供されている。
UBSによると、世界には現在、7079言語(話者76億人)が存在する。このうち674言語(同54億人)で新旧約聖書が、1515言語(同6億3100万人)で新約聖書が完成している。また1135言語(同4億600万人)では、聖書が一部のみだが翻訳されている。しかし、世界では聖書の翻訳事業が400余り行われているものの、3773言語(同2億900万人)でまだまったく聖書が翻訳されていない。UBSは「宣教に欠かせないこの分野(聖書翻訳)のために、また各聖書協会、協力団体の必要のためにお祈りください」と呼び掛けている。
聖書協会世界連盟(United Bible Societies=UBS):1946年、戦後の混乱の中にある欧州やアジアの人々にいち早く聖書を届けようと、13の聖書協会が協力したことで始まった。世界的に貧富や教勢の差がある中で、聖書普及や翻訳、製作などを支援し合う働きをしている。2018年現在、日本聖書協会を含め約150の聖書協会が加盟しており、活動地域は世界200カ国・地域に上る。