ユースなど、若い世代向けに映画会を企画する場合、どうしても流行を追う必要が出てくる。テレビによく出る俳優が登場するか、作品が話題となっているか、そして内容が現代的(決して現代劇である必要はないが)であるか。このあたりが選考ポイントになる。
そして最大の決め手は、主人公や登場人物が苦悩し葛藤する事柄が、その世代にリアリティーを与えるものかどうか、ということである。以上のことを考え、単なる時間つぶしや人集めだけにならない、きちんと内容のある作品を幾つか紹介し、どうしてこれがユースに適しているかを見ていこう。もちろん、適正については、青木個人の主観が入ってしまうことをご容赦願いたい。
「ちはやふる 上の句」「ちはやふる 下の句」(2016)
押しも押されぬアイドル女優、広瀬すずが主演し、大ヒット漫画が原作であるということが強み。しかし、単なるアイドル映画ではない。弱小かるた部の部員たちが、どうやって競技かるたの面白さを体得していくか、さらに百人一首の内容にまで思いを馳せていくか、というあたりがとても秀逸。特に「上の句」は、自分が興味を持てないもの(映画の中では「競技かるた」)にどのように向き合うか、興味関心の幅をどうやって拡大するか、という若い世代の普遍的なテーマを扱っている。
キリスト教と何の関係が?と思うだろう。そのあたりは、以前筆者が書いた映画評を参考にしてもらいたい。
■ 関連記事:競技かるたに青春を燃やす広瀬すずに日本の教会が学ぶべき姿を見た!? 映画「ちはやふる」
教会に集まっているユースたちに、どうやったら自分たちの仲間を増やすことができるか、何が友達を教会に誘う障害となっているか、など話し合えたらいいと思う。そういった意味では、クリスチャンの若者たちで鑑賞するのに適しているかもしれない。
「桐島、部活やめるってよ」(2012)
いわゆる「スクール・カースト」を題材にした青春映画。神木隆之介、東出昌大、山本美月(みづき)など、現在第一線で活躍する若手俳優たちのデビュー当時(神木だけは別格)の姿を見ることができる。主人公は高校生2人。映画オタクで学校内では底辺層に置かれている映画部の男子(神木)と、かつて野球部に属し、スポーツ万能頭脳明晰なイケメン男子(東出)。前者は皆からバカにされながらも映画を撮ることでアイデンティティーを見いだそうとし、後者は何をやっても簡単にできてしまうことで、むしろ耐え難いむなしさを覚えている。
しかし、そんな彼らの想像上の階級(スクール・カースト)に大きな変化が訪れる。学校一の人気者、桐島が部活をやめ、姿を消してしまうのだ。これによってカースト制度のヒエラルキーにほころびが見え始め、他者との相対的な位置関係に自己を見いだしていた高校生たちは基軸を失って動揺し始めることになる。
「人は何のために生きるのか」「自分は将来、どんな生き方をすべきか」など、古くて新しい問いに対し、本作は決して答えを出さない。登場人物たちを動揺させたまま映画は幕を閉じる。いわゆる「オープンエンド」作品である。だからこそ、鑑賞後に話し合う余地が生まれる。ここにクリスチャニティーを若い世代へ紹介するきっかけが生まれる。
「何者」(2016)
「桐島、部活やめるってよ」と同じ原作者の映画化。舞台は就活真っただ中の大学生。佐藤健、有村架純(かすみ)、岡田将生(まさき)、二階堂ふみらが出演する群像劇。2000年代前半の就職氷河期を経て以降、「就活」という言葉は大学生の日常を変えた。初めて自分という存在が社会で評価される機会となり、単に勉強ができるとか、好きなことがあるというレベルを超え、包括的に人物評価が下される機会に臨むことになる。
そこで彼らの性格、物の考え方、世界観の相違が色濃く立ち現れてくる。これを際立たせるツールがSNSだ。劇中でのSNSの用いられ方が秀逸で、あまりにリアリティーがありすぎて、後半はホラーテイストがここに加味されてくる。
アイデンティティーをどう形成するか、それが社会ときちんとリンクできているか。そのあたりを問い、決して1つの結論を示さず、観客に投げ掛けている。果たして主人公たちの行動はあれでよかったのか? そこに「信じる」という基本的な姿勢があったら変わっていたのか? そんな議論が巻き起こることは必至。そして、そこに「福音」が届けられる素地を形成することになる。これは大学生以上の映画会に最適か。
「わたしを離さないで」(2010)
ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロのSF小説が原作。2016年1月には舞台を日本に移し、綾瀬はるか主演で連続ドラマ化された。連ドラは映画会には適さないので、コンパクトにまとめられた2010年の英国映画を取り上げる。主演は「アメイジング・スパイダーマン」「沈黙」のアンドリュー・ガーフィールド。隔離された空間で大切に養育される主人公たちの生活、それは一見、何不自由ない贅沢な学校生活である。
しかし、次第に明らかになる「異様な日常」が増大するにつれ、彼らが置かれている異常な世界は、その全貌を現すことになる。しかし、それに反して彼らの純粋で真っすぐな生きざまは、私たちの日常とまったく変わらない地続きとして描かれるため、最後に訪れる悲劇が私たちの心をかきむしることになる。
命とは、人間とは何なのか。また、神とは、創造とは? そんなことを考えさせ、自分たちの日常と彼らの「日常」との対比を語らずにはおれないだろう。実践神学的な問いを喚起するため、トピックスは多岐にわたることになるが、面白いディスカッション、またかなり鋭い福音伝達の機会となることは請け合いの1本である。
その他、内容紹介はできないが、現在DVDなどで見ることのできる作品名と簡単なコメントを列挙しておこう。
- 「君に届け」(2010)・・・多部未華子主演。セルフイメージが低い主人公の成長物語。
- 「フランケンシュタイン」(1994)・・・ケネス・ブラナー監督作。生命の創造の深淵を描いた傑作。
- 「Love Letter」(1995)・・・岩井俊二監督作。携帯などなかった時代の恋愛と喪失を見事に描く。
- 「グラン・トリノ」(2008)・・・クリント・イーストウッド監督作。自己犠牲と愛の物語。
これらを用いて、教会でおのおのが自分と神様との関係を発見する機会となれば幸いである。次回は、大人向けに紹介したいと思う。かなりエグいものもラインナップすることになるかも(いいのかな・・・笑)。
また、こういった映画会を開催し、それを導く機会を与えてくださるなら、存外の幸せです。ご連絡は、青木保憲(メール:[email protected])まで。
◇