米最大の無神論団体「宗教からの自由財団」(FFRF)が、ノースカロライナ州にある小学校の校内で国際ギデオン協会の聖書が配布されたとして、学校を管轄する学区に対して抗議書を送った。FFRFは政教分離をうたい、訴訟を含む活動を全米で行っている。ペンシルベニア州の高校の敷地内に、寄贈された「十戒」入りの記念碑があることを問題視して起こした訴訟では今年2月、学校側と和解に持ち込み、記念碑を撤去させた上で、訴訟費用として約4万ドル(約430万円)を支払わせている。
国際ギデオン協会の聖書が配布されたのは、同州カラバス郡にあるチャールズ・E・ボガー小学校。カラバス学区のクリス・ローダー教育長に宛てられた抗議書(3月31日付、英語)によると、FFRFは先月、国際ギデオン協会の聖書が配布されたという報告を保護者の1人から受けたという。
FFRFの弁護士であるパトリック・エリオット氏は抗議書で、「公立学校の登校日に、国際ギデオン協会の聖書を配布することを学区が許可することは違憲です」と主張。「公立学校には憲法上の義務がありますから、宗教に対する中立を保ち、未熟で影響を受けやすい生徒たちの良心の権利を守らなければなりません」と述べている。
同学区の広報責任者であるロニー・P・ブーン氏は6日、クリスチャンポストに対し、学区の弁護士が「この件を検討している」と語った。
エリオット氏は、1953年にニュージャージー州最高裁で争われたチューダー対ラザフォード地区教育委員会訴訟の判例を引用している。この訴訟で同州最高裁は、公立学校内での宗教書の配布を許可することは宗教の自由を侵害するとし、国際ギデオン協会に敗訴を言い渡している。
判決文には「この国の公立学校で欽定訳聖書を配布した場合、米国とニュージャージー州の宗教的寛容と自由の分野で築かれた、すべての先例を捨て去ることになるであろう」「そうなればさまざまな宗教間に古くからある争いが災いし、万人に損害をもたらすことになる。われわれはこれを拒否しなければならない」と書かれている。この判決については、米連邦最高裁も有効性を認めているという。
国際ギデオン協会の広報担当者であるアリソン・J・デービス氏は、クリスチャポストへ送った声明で「過去数年間、同様の苦情を受けていますが、われわれはこれらには応じないことにしています」とコメントした。「国際ギデオン協会は、認可された公共の場所や推薦を受けた場所に聖書を配布しています」と説明し、「私たちは米国や他の多くの国々、地域、建造物などで、法律を順守し、ガイドラインに従って運営しています」と強調した。
国際ギデオン協会は、ホテルや病院などへの聖書の備え付けや、若い世代への聖書の無料贈呈などを行っている世界的な宣教団体。1899年に3人の米国人クリスチャン・ビジネスマンが互いに祈り合い、無料で人々に聖書を贈呈しようとして始まった。現在は200カ国余りに活動が広がり、会員は世界で約30万人もいる。
一方、FFRFは2万7千人の会員がいる全米で最も大きな無神論団体。2015年には、すべてのホテルの客室から国際ギデオン協会寄贈の聖書を撤去し、代わりにチャールズ・ダーウィンの『種の起源』を置くよう求めるキャンペーンを行うなどしている。
迫害監視団体「国際キリスト教コンサーン」(ICC)は今年、世界の迫害状況をまとめた報告書で、米国、ロシア、メキシコの3カ国を、迫害が増加傾向にある「注目すべき新たな国」に加えた。ICCのジェフ・キング会長は米国について、「文化や裁判所が公的な場から信仰を意図的に追い出そうとしているように思える側面があります。物事の道理を明らかに見失い、誤った判決を下している判例があまりにも多い状況です」と述べている。