昨年末、恋ダンスで盛り上がった「逃げるは恥だが役に立つ」と、出版社を舞台にした「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」。それらのテレビドラマのタイトルを掛け合わせて、「シゴトは地味だが面白い」と命名したのは、司会を務めた雑誌「ミニストリー」(キリスト新聞社)編集長の松谷信司氏(40)だ。このようにタイトル付けは編集者の腕の見せどころである。
歩行者天国で賑わう東京・銀座のど真ん中にある教文館3階には、日本有数の売り場面積を持つキリスト教書フロアがある。その一画で4日、キリスト教出版社の編集者2人によるトークライブが行われた(同フロアで開催中の「これだけは読んでおきたいキリスト教書100選」フェアの一環として企画された)。スペースの関係もあり、集まったのは二十数人とこぢんまりしていたが、本好きにはたまらない興味深いやりとりが展開された。
日本キリスト教団出版局で書籍や雑誌「説教黙想アレテイア」の編集に携わる土肥研一氏(42)。ビジネス書の出版社から転職して15年目だ。自ら手掛けて思い入れのあった3冊は、小笠原亮一『北国の伝道』、18人の牧師による『牧師とは何か』、そしてW・ブルッゲマン『旧約聖書神学用語辞典』。土肥氏自身、働きながら日本聖書神学校に学び、現在、日本基督教団目白町教会の伝道師をしているが、「市場にまだなくて、自分が読みたい本を作るのが編集者」と語ったとおりの選択だ。たいへんな才能を持ちつつ信仰者としても優れている人と出会い、共に成長していけるのは編集者冥利に尽きると情熱的に語る。
一方、教文館出版部の髙木誠一氏(37)は、最初、キリスト新聞社の営業から編集者となり、出版社を移ってちょうど10年目という。髙木氏が挙げたのは、小島誠志『朝のみちしるべ―聖句断想366日』、大嶋重徳『自由への指針―「今」を生きるキリスト者の倫理』、そして『オックスフォード キリスト教辞典』の3冊。どれも「ジャケ買い」―装丁のよさで買う人もいたと言われるほど、「手もとに置いておきたい本」となるよう工夫されている。ただ外側だけではなく、この時代を生きる人の心に響く新しい言葉を紡げる書き手を見いだし、育てていきたいとも。それぞれの本への思い入れが2人から熱く語られたこともあり、閉会してから紹介された本を買う人も多く見られた。
その後は、司会の松谷氏が10の「編集者あるある」を言い、そう思うか思わないかを2人が〇✖で答える息抜きタイム。「編集者は仕事を理解されていない」「人のミスは気付くのに自分のミスには気付かない」「文房具にこだわりがある」「テレビのテロップの間違いが気になる」「椅子で寝られる」「仕事を時給換算できない」「締め切り直前の執筆者のSNSを見たことがある」「この本は売れないだろうなと思いながら作ったことがある」「思い入れのある本が売れるとは限らない」「編集者同士会うと『紙媒体、やばいっすよね』と言う」
後半はオーディエンスから質問の時間。若い女性から「なぜキリスト教書には電子書籍があまりないんですか」と問われ、会場にいた新教出版社社長の小林望氏(55)が答えた。「うちでは早くから雑誌『福音と世界』や単行本を積極的にキンドルで読めるよう取り組んできたが、コストが掛かるわりに売れないので、雑誌は撤退した。しかし、売れるようになれば、電子書籍化を進める」
続いて、キリスト教出版社あめんどう代表の小渕春夫氏(65)が、「牧師や神学者の本ばかりでなく、信徒の日常生活からの発言をすくい上げる書籍が必要なのでは」と提案した。
さらに、一般出版社と仕事をしているクリスチャンのフリー編集者が、「クリスチャンが考えるキリスト教と、一般の人が考えるキリスト教は非常にかい離していて、それを埋めていく努力が必要ではないか。渡辺和子さんの『置かれた場所で咲きなさい』(幻冬舎)など、クリスチャンの言葉は求められているのだから、一般の編集者と交流を持っては」と問い掛けた。
別の男性も、「『ふしぎなキリスト教』(講談社)を信仰者が読むと違和感がある。普通のクリスチャンが何をどういうふうに信じているのかが一般の人にはほとんど理解されていない」と語った。土肥氏はそれに対し、クリスチャンでないとき読んで感動したキリスト教書があることを語り、そんな本こそ一般書店や電子書籍で広く紹介していく必要があるのかもしれないと、自らの課題として深く受け止めていた。
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