大阪地方裁判所で退官まで執行官として勤め、さまざまな人生を垣間見てきた菰渕泰(こもぶち・やすし)氏。クリスチャンのビジネスマンや企業家の集い「インターナショナルVIP大阪」で世話人を務める。
30代の時に教会で聞いた学生バンドでイエス・キリスト「JESUS」の名前を聞き、贈られたリビングバイブルを読んだことがきっかけで、人知を超えた神の存在を知ったという菰渕氏。彼がどのように神と出会い、歩んできたのかを、大阪の地で聞いた。
菰渕氏は周囲から「菰(こも)さん」の愛称で親しまれている。面倒見が良く、優しい性格の持ち主だ。日本人は「褒められる」「評価される」ことに抵抗感を示す傾向が強いが、菰渕氏は褒められれば、「ありがとうございます!」と笑顔で答える。これは「神様がたたえられたから」だという。このように前向きな生き方は、クリスチャンの「地の塩、世の光」としての証しだ。
日々の仕事は、明け渡しや、差し押さえ、競売の手続きの現況調査報告書の作成が主な担当で「民事執行」に携わっていた。仕事は強制力をバックにした大変厳しい内容だ。「赴くだけでストレスを抱かせてしまう立場にいました」。菰渕氏は相手の立場を最大限に守ることを心に銘じながら職務を全うした。
「怖い」というイメージを持たれる仕事だが、「言葉遣い、思いやり」に細心の注意を配りながら、相手にセカンドダメージを与えないように努めたという。「相手の背後にイエス様が立っていると思って仕事をしました。正しい情報を正しい方法で語るだけです」と語る。
時には、新しい人生を歩めるように諭し、温かな励ましも口にする。まさに人情派執行官だ。「イエス様が師匠。自分ではなく神様が言わせてくださいました」と話す。
「詰めの甘い聖書解釈がどうしても気になってしまいます」と、自身の証し(VIP関西)でも語るように、「目の肥えたビジネスマンを納得させるには、もう一工夫必要ではないか」と提案する。学生時代から退職をするまで厳密な法律の解釈の世界に生きてきたからこそ、聖書の解釈に深く踏み込むことができるのだ。
「天が地よりも高いように、わたしの道は、あなたがたの道よりも高く、わたしの思いは、あなたがたの思いよりも高い」(イザヤ書55:9)
神の思いを人生の中で大切な指針とし、それに導かれるように生きたいと力強く語った。
VIP関西での働き
NHK朝の連続ドラマ小説「あさが来た」で一躍有名になった、五代友厚氏の銅像が立つ「大阪証券取引所」。そのすぐ目の前に北浜スクエアビルはある。9階建てのビルはVIP関西の事務所が入るほか、イベント、セミナーに貸し出しを行う「駅マエ」レンタルスペースとして運営されている。日曜日には、北浜インターナショナル・バイブル・チャーチ(黒田禎一郎牧師)として、礼拝がささげられている。
人生をコントロールする秘訣
菰渕氏は、信仰を持ったことで「心の平安」を得られたという。それを「PEACE、穏やかな気持ち、落ち着いた気持ち」と表現する。自分で努力をして積み上げてきた人生、結果を出すのは神だと、聖書を通して分かったからだ。菰渕氏の証しでもある「人生をコントロールする秘訣」(VIP関西のホームページにて掲載)をぜひ読んでほしい。
将来を担う若きクリスチャンたちへ
菰渕氏に、次世代のクリスチャンへメッセージをお願いした。「バランス感覚のあるクリスチャンが必要になると思う」と語ると、持ち前のユーモアを交えて「変なクリスチャンはいらない」と述べた。
これは、社会の中で良い影響力、社会性のある生き方の必要性を意味し、日本のクリスチャンに起こりがちな「縛りの多い生き方」へのアドバイスでもあり、仕事で培った経験から語る思いだ。
疲れない信仰生活とは
2010年、大阪城ホールで開催された「関西フランクリン・グラハム・フェスティバル」では実行委員に加わり、社会的な面で牧師たちの働きを支えた。信仰生活について聞くと、「スキーのゲレンデを滑るように。音楽のライブのような信仰観が大切です」と答えた。だから、自然と明るく楽しく毎日を過ごせるのだ。
疲れない信仰生活の秘訣は「神様のご入用と、人間の必要をきちんと見極めること」だと述べる。「神様のご入用」に徹すれば疲れない、これが「菰(こも)さん式」のクリスチャンライフだ。
聖書は筋の通った素晴らしい書
「これは、自分にはかなわない。筋の通ったすごい書だ。神の存在を感じました」と、聖書に初めて触れたときの感動を語る。4つの福音書については、同じストーリーでも微妙にニュアンスが異なる点に注目した。
「全てが同じ内容であれば、4つの福音書の著者が口裏合わせをしたことになりますから、むしろ違和感があります」。それぞれの「違い」が、聖書が真実であることを証明していると専門家の視点で語る。「聖書は間違いがない書。生きた書です。本質に神様がおられます」と笑顔で語った。
「(最初は)自分が3人いたら勝てるとうぬぼれていました。聖書は、自分が100人いても勝てませんよ。人の知恵は掃いて捨てるほど、見聞きしてきましたから」
人は人間関係で苦しみ、葛藤する。ところが、聖書は「『そら、ここにある』とか、『あそこにある』とか言えるようなものではありません。いいですか。神の国は、あなたがたのただ中にあるのです」(ルカ17:21)と語る。菰渕氏は「主イエス様は人間関係の中に神の国があると言い切っています」と、強く主張した。
御言葉通りであれば、人間関係で苦しむことは、本来はおかしなことではないのか。人は人に向かって順応するように要求し、全ての生命体はいまだかつて環境に順応したものはなく、全滅している。「環境が自分に合わせてくれなければ、生きることはできません。これは、聖書の教えと共通しています。『変われ、変われ』ではない。そこが聖書の面白さ」と話す。
人は愛すべき対象です
「聖書に『鼻で息をする人間をたよりにするな』(イザヤ書2:22)と書いてあります。人を信じるのではなく、神様を信じるのです」と菰渕氏。では、人とはどのような対象なのだろうか?
菰渕氏は「愛するべき対象です」と語る。「自分を愛したことがない人間が、どうして愛せるのか」と、「菰(こも)さん式方程式」で語る。
「聖書の愛とは、相手を思うことなのです。人間は自分のことをクヨクヨと考えるでしょう。同じように相手のこともクヨクヨと考えてあげる、それが聖書の愛ではないでしょうか」
「あなたは人を赦(ゆる)せますか?」。質問は続く。「普通はできませんよね」。古代から農民同士、水で争ってきた日本の歴史に触れ、「事実として、あなたの行ったことは認めるが、そのままにしながら和解する。水で流す。これが聖書の赦しではないか」と語った。
救われたきっかけ
30代半ばで、自宅近くの教会で行われたゴスペルコンサートに出席。音楽好きの菰渕氏は、ゴスペルと聞いて「ブラックゴスペル」と期待して出掛けたものの、「案に相違して、学生バンドでがっかりしました(笑)」。
しかし、彼らが歌うイエス・キリストという方に興味を持ち、教会から贈られた新約聖書(リビングバイブル訳)を自宅で読み込んだという。法律に接しながらの日々、「聖書に書かれているイエスという方が、神だとすぐに分かりました」。言葉の端々に神の知恵があり、これは人間ではないと理解したからだ。教会へ通うようになった菰渕氏は、半年後に救われた。
菰渕氏は、自分の賜物をしっかり理解している。「クリスチャンを元気にすることですね。『あなたが元気になったら兄弟姉妹を励ましなさい』と書かれています」。御言葉をしっかり自分のものにし、それを自然体で生かしている姿が印象的だった。
――菰渕さんにとって神様はどのようなお方ですか?
「誤解がないように注意して言わなければなりませんが、私の大切な遊び仲間。面白い事、楽しい遊びを教えてくださる方。人生が楽しくてわくわくする刺激を与えてくださる方です」
「私たちの心はうちに燃えていたではないか」(ルカ24:32)
菰渕氏は、定年退官後の2015年5月に江坂ホール(大阪府吹田市江坂町)の音楽プロデューサーに就任した。江坂ホールのブランドを高めるために、関西の有名なミュージシャンに出演依頼し、「世界に冠たるホールに育てたい」と思いを語った。
――クリスチャンビジネスマンの最終的なゴールはどこにありますか?
「顧客の絶対的な充足的な満足。イエス様から『よくやった。Good job!』と言われること。クリスチャンへのビジネスに難しさは覚えたことはありますが、クリスチャンビジネスに難しさは感じない。ホスピタリティーある対応は、私たちクリスチャンが一番できることではないでしょうか」
――VIP関西の働きについて教えてください。
「VIP関西は、クリスチャンビジネスマンによる、牧師先生方の宣教のお手伝いをする団体です。宣教団体ではありません。聖書に『教会で評判のよい人がリーダーになりなさい』と書いてあります。関西のVIPクラブでは、『教会で評判のよい人』以外は使いません。教会の不満をVIP活動で解消することはご法度です。いかなる教会の分派活動(教派)にも関わらない。ただ、教会の徳を高めるために活動しています」
活動スケジュールもおのおのの教会奉仕に支障がないよう配慮しているという。
クリスチャンの将来への責任
「クリスチャンであることを隠さず、しかし、宣言をするというような不自然な対応ではなく、自然体の自分の行く道で主を認めて進むべきです。そうすれば、神様は道を整えてくださる、と聖書に書いてあります」
「これから仕事に就く若い世代のクリスチャンには、礼拝を守れる仕事に就いてほしいです。違法なことは、神様が最も嫌われます。避けるべき注意点です」
菰渕氏は「日本の人口の30パーセントが救われること」を目標に掲げ、健全な教会形成と、信徒として牧師を支え、人と人をつなぐ働きに尽力したいという。
元裁判執行官というキャリアを持ち、人間の表裏の世界を見続けてきた菰渕氏。趣味は古代史、音楽と語る彼は、今は音楽をプロデュースする立場で自身の賜物を生かしている。非常にユニークで魅力的な人生だ。満面の笑みで証しする姿に「神の愛」を感じることができた。江坂ホールを運営するロゴス企画での活躍からも、目が離せない。