心に響く手のひらサイズのメッセージ集として人気のある「聖書一言メッセージ」は、埼玉県所沢市にある日本同盟基督教団北秋津キリスト教会で制作されるオリジナルの冊子だ。ページをめくると筆書きの聖句が目に留まり、分かりやすく聖句が解説されている。クリスチャンも、そうではない人も、読んでどこか気持ちが温かくなる内容だ。当初は教会内の希望者だけに譲っていたというメッセージ集も、口コミで評判が広がり、全国から問い合わせが入るようになったという。
このメッセージ集は、北秋津キリスト教会の教会員・栢沼将夫(かやぬま・まさお)さんが長年の研究を積んできた書と、聖句を解説する同教会の浜田進牧師のメッセージで仕上げたものだ。無料制作ソフトで牧師自ら作成している。
スタートは1985年4月。その年、同教会に就任した前々任者の小林和夫牧師に、栢沼さんの妻が、教会の玄関に貼る「説教題」を書かせてくださいと頼んだことがきっかけだった。趣味の書道が教会の奉仕へとつながっていった。
1942年生まれの栢沼さんは74歳。所沢市で40年以上、水道工事の会社を経営するベテランの職人だ。出身は東京都江戸川区小岩で、戦時中は神奈川県小田原市に疎開。焼夷(しょうい)弾で焼ける東京の空をはっきり覚えているという戦争経験者でもある。
栢沼さんの両親は1958年、自身が15歳(中学3年生)の時に離婚している。栢沼さんは男3人兄弟で、上の兄はクリスチャン。7つ下の弟は神を信じることなく亡くなったという。自分の過去を話すのが苦手という栢沼さんの代わりに、浜田牧師が語ってくれた。「もともと、クリスチャンは何か良いな、格好良いものだな」と良いイメージを持っていたという。母親が信仰を持ち、兄、弟の栢沼さんの順にクリスチャンになった。
「立派なお袋です」。そう話すと、当時の思い出を語ってくれた。「母親と一緒に住んでいたときは分からなかったが、亡くなってからすごい人だったなと知りました」
「季節のみことば」(年間の聖句)の企画者で、かつて日本基督教団下石神井教会で栢沼さんと同じ教会員だった相田典子さんが、「立派なお母さんでしたよ」と教えてくれたそうだ。「離婚してから、お袋は信仰を持つようになったのです。兄は高校3年生、弟は7つ年下です。調停後、3人兄弟は母親と暮らすことになりました」
生活のために栢沼さんは15歳で働きに出て、高校生の兄も学校を辞めて仕事をした。栢沼さんは「別に大変とか、稼いだお金を欲しいとは思いませんでした。それでも500円くらいかな。小遣いをもらいましたよ」と言う。そう語ると、何か懐かしそうにほほ笑んだ。
母親は保険外交員の仕事に就くが、栢沼さんに言わせると「口下手だから」との理由もあって長くは続かなかったそうだ。
そのような中、栢沼家に転機が訪れる。東京都東久留米市にあるインターナショナル・スクール「クリスチャン・アカデミー・イン・ジャパン」(CAJ)で、寮の賄いの仕事を紹介された栢沼さんの母親は、そこで働くことになり、家族全員が住み込みで暮らすことになった。
その翌年のクリスマス、12月25日に栢沼さんは洗礼を受けた。「教会だけは長いのですよ」。笑いながら語るが、言葉一つ一つが謙遜で温かみがある。このような人生に対しても「苦労したとは思っていない」と話す栢沼さんは、「全て事実のことだから」と現実に向き合って歩む姿勢を証ししてくれた。
所沢市には27歳の時に移住。この地で所帯を持った。水道工事の会社を地元で40年(通算53年)続ける職人だ。浜田牧師は「教会では何でも直してくださいます。水回りで困ったら栢沼さんにお願いしているのです」と、心強い存在だと話す。
もともと、日本基督教団の信徒であった栢沼さんは、所沢市に移住してから日本同盟基督教団の北秋津キリスト教会へ通うようになる。かれこれ30年近くになるという。宣教師により開拓され、「ゴールデンチャーチ」(愛称)と呼ばれた黄色のプレハブで礼拝をささげていた時代を知っているメンバーの1人だ。
栢沼さんに教会について聞くと、「最初は敷居が高かったです。でも、自分は自分、そう思って来ていましたから。教会は頭の中がすっきりします」。栢沼さんの妻は信仰に篤(あつ)く、栢沼さんは冗談交じりで「牛に引かれて善光寺参り」ということわざを「妻に引かれて教会に」ともじり苦笑い。夫婦そろって毎週欠かさず礼拝に出席している。妻への感謝の気持ちも忘れない。
教会の看板を20年間も書き続ける
書道について話を聞いた。「もともとは、年賀状を筆で書きたかったのです」。1年ほど、忙しい合間を縫って書道教室に通った栢沼さん。どうしようかと考えていた矢先に、妻が小林牧師に教会の玄関に貼る「説教題」を書いてもよいか尋ねたのだという。栢沼さんは夜、仕事が終わってから筆を取る。「妻は墨をすりながら寝ているのですよ(笑)」「小林牧師にお願いした以上は責任がありますからね・・・」。そう謙遜しながらも、うれしそうに語ってくれた。北秋津キリスト教会の玄関にある看板には、栢沼さんが書いた「説教題」が貼られている。20年間も書き続けてきたのだ。
栢沼さんは、最初の頃に制作した栢沼さんの作品を特別に持ってきてくれた。「見せたくないなあ」と照れつつも、紙袋から取り出したのは立派なカレンダー型の聖句集だ。浜田牧師はそれをめくりながら、「素晴らしいですね」としばし眺めていた。
当時から栢沼さんの書に、小林牧師がメッセージ(解説)を書き加えていた。「この解説が素晴らしい」と浜田牧師は言う。「最初は、教会の人を中心にお譲りしていましたが、好評で在庫がなくなりました。栢沼さんとお話をしたときに、栢沼さんのお兄さんが『毎日、御言葉があれば生きられる』と言われ、それを聞かれた栢沼さんが、365日分の聖句を書きたいと思われたそうです」
「聖書一言メッセージ」を実際に作成している浜田牧師は、編集や加工がパソコンで自由にできるフォトブックというサービスを見つけ、試行錯誤しながらより親しみやすいものに仕上げてきたと話す。書の世界は余白のバランスも大切で、その点も配慮した内容だ。
聖書一言メッセージの紹介
「聖書一言メッセージ」シリーズは写真のないものと、写真のあるものの2種類ある。写真のないものは、文字が少し大きめで、「書」と「一言メッセージ」が見開きのページで別々になっている。
写真入りのものは、「書」と「一言メッセージ」が1つのページに収まっている。多くの人に人気だ。写真入りの「聖書一言メッセージ1」「聖書一言メッセージ2」は、盛岡聖書バプテスト教会の近藤愛哉(よしや)牧師が撮影した写真を使用し、「聖書一言メッセージ3」は浜田牧師の父親が撮った写真を使っている。
人の心に響くメッセージ
浜田牧師は、「今まで聖句書道、写真入り御言葉集はありましたが、有名な御言葉が紹介されていることが多いですよね。誰でも知っているわけです。そうなると、知っているが故に、御言葉が抜けて行くことがあるような気がします」と言う。
「聖書一言メッセージ」では、さまざまな聖句が紹介されている。そこに書かれるメッセージを読むことで、「自分が聞いていたものと違った角度で学べ、このような視点があるのだな」と、新たな発見ができるのだ。
クリスチャンには、御言葉が迫ってくる手伝いになるよう意識し、クリスチャンではない人は、聖書を読む機会がなかなか無いだけに、手軽に福音に触れる機会となってほしいと語る。
読者の中には、「家族でクリスチャンは私だけです。この『聖書一言メッセージ』を家族にどうにか読んでほしくて、考えた末、申し訳ないけれどトイレに置かせていただきました」と言う人も。ユーモアも交えた読者の感想だが、伝道ツールとして大きな可能性を秘めている。
栢沼さんは年季の入った大きな聖書をカバンから出すと、旧約聖書の詩篇56篇8節「どうか私の涙を、あなたの皮袋にたくわえてください」を読み上げた。「ものすごく優しい言葉ですね。うんと苦しんでいる涙を皮袋に入れてくださる・・・」。栢沼さんはこの聖句に触れ、そう語ると優しくほほ笑んだ。
続けて、詩篇119篇71節「苦しみに会ったことは、 私にとってしあわせでした。私はそれであなたのおきてを学びました」を紹介する。この聖句は、「心が豊かになり、すごく安心できます」と分かち合ってくれた。
説教作りと似ている栢沼さんの書の世界
栢沼さんに、浜田牧師について聞いてみた。「すごい先生ですよ。年齢的には親子なのですが(笑)。でも、そのようなことはこれっぽっちも思ったことはないです」
浜田牧師は、栢沼さんの書の世界は牧師の説教作りに似ていると話す。「書を書くときに、さまざまな辞書や書体の参考書を見ながら自分の字にしていくわけです」。「牧師も何度も聖書を読み、ギリシャ語の意味や注解書に目を通す。最後は自分で吸収していく。祈りながら語るべきことを神様が教えてくださるので作業として似ています」。浜田牧師がそう語ると、栢沼さんは黙って聞きながら、うれしそうな表情を浮かべていた。まさに福音のための共同作業だ。
栢沼さんに、信仰について尋ねると、「クリスチャンとして自分で自覚して生きていくしかない。人は失敗したら自分が悪い。けれども、神様を信じているのだから心配ない」と述べてくれた。心配しなくて良いという強い信仰、言葉の重みを感じた。
「あなたがたの思い煩いを、いっさい神にゆだねなさい。神があなたがたのことを心配してくださるからです」(ペテロの手紙第一5章7節)
栢沼さんは最後にこの聖句を紹介し、「神様に任せればいい。気楽になれるから」と力強く信仰を告白してくれた。北秋津キリスト教会で制作された「聖書一言メッセージ」を通じ、全国から「励まされた」「力づけられた」「慰められました」との声が届く。「毎日、御言葉があれば生きられる」。「聖書一言メッセージ」を通じてたくさんの人に御言葉が伝わることを期待したい。
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店名:二一八 店番:218 (普)4204972 ハマダススム
詳しくは、聖書一言メッセージのツイッターで。問い合わせは、北秋津キリスト教会(電話:04・2992・9893、メール:kitaakitsu.hamada[at]gmail.com)まで。