3歳から子どもタレントとして英語教室の2カ国語の芝居などに出演していた有限会社BMTプロダクション・カナン代表取締役の森重義孝(もりしげ・よしたか)さん。10歳の時に見た「ガラスの仮面」で強い衝撃を受け、「自分がしていることは、ちゃんとやっている人に対して失礼だな」と感じたことが、タレントの道に進むきっかけとなったという。
森重さんは10歳にして突出した世界観を持っていたようだ。キリスト教との最初の接点について、こう切り出した。「友だちの家にインベーダーゲームがありまして。当時は最新の卓上型のゲームが家にあるので遊びに行っていました。僕はゲームより、友達のお母さんが聖書の話をしてくれて・・・」。なんとゲームより、聖書に興味を持ったという。
森重さんは早速、友人の母親から聖書を学び始めた。学んでいくうちに、聖書への興味がどんどん増していった。学びが進むと、今後は学生のお兄さんが聖書を教えてくれた。
「でも、学生のお兄さんより、自分の方が聖書の知識があるように感じました」。この言葉の通り、森重さんは聖書の達人と化していった。
しかし、次第に「何か違う」と感じるようになり、勉強会はトーンダウンしていった。実は、この勉強会こそ「エホバの証人」だったのだ。何も知らない10歳の森重少年は「ここじゃない」と感じたそうだ。
真のキリスト教ではなかったが、後に信仰を持つきっかけになる出会いであったことは間違いないと、その時のことを感謝する。「エホバの証人」とは、それから一切関係はないが、「何事も批判しない」と語るように、森重さんはプラス思考で出会いを1つも無駄にしない考えの持ち主だ。それからは20年間、教会とは無縁の生活を送ることになる。
阪神大震災以降、某有名企業の玩具部門に就職。一時は店長まで務めた。5年の充電期間を経て2000年1月に東京キリストの教会へ通うようになる。この教会で学びを受け、7月30日に受洗した。
この教会ではアーツメディアスポーツ(AMS)というセクターに所属。特に芸能に関するグループに属していたという。一般の社会人と異なり、芸能の世界特有の悩みを抱える兄弟姉妹と接していく中で、彼らが「仕事か、神様か」という葛藤に直面していることを知る。この時に森重さんは「このようなことで悩み続けるのは良くない。霊的に彼らが守られる事務所があってもよいのではないか」と考えるようになった。
ところが、所属していた東京キリストの教会で01年から03年にかけて体制崩壊が起きる。大勢の信徒が教会から離れるという事態が発生した。森重さんはこれを機に8年近く教会と無縁の暮らしを送る。自身で暗黒時代と表現するほど傷ついたり悩んだりする時期だった。
しかし、この苦しみの中で神様が必要だと再認識し、ミッション・エイド・クリスチャン・フェローシップ(お茶の水クリスチャン・センター)で当時、協力牧師を務めていた平塚修久牧師と出会い、導きにより4年ほど前に基督聖協団・市川教会(グレースチャペル:平塚修久牧師)へ通うようになった。
紆余(うよ)曲折があっても、自分の歩みを恥じることなく打ち明ける森重さん。あの出会いがなければ、信仰を持つことはなかったと振り返る。
過去を振り返りながら「対立を乗り越えることですね」と話す森重さん。自分は万人祭司(聖書の教え)として全ての人に福音を宣べ伝えたいと熱く語る。「修行や人間の努力で勝手にできることではない。それが信仰なのでしょうね」
芸能界には、特定の宗教を信仰する組織の力があることも事実だそうだが、森重さんはその人たちと距離を置くのではなく、救われてほしいという祈りから丁寧な付き合いを心掛けている。「頭から否定してしまうと、そこで関係は終わりです。それは、仕事を選ぶ際にも生かされています」
さらに「罪人と食事を共にされたイエス様を思い出すのです」と森重さん。業界は誘惑が多いが、自分が強くなるのではない、どれだけの信仰を持てるかだと経験から証しする。森重さんの言葉には優しさが溢れている。「鍛えて強くなるものではありませんね」。そうつぶやいた。
その後、芸能プロダクションをスタートしたが、何度か社名を変えながら、軌道に乗るまで紆余曲折しつつ頑張ってきたという。
驚くような経験をしました、と話す森重さん。以前からお世話になっていた某不動産業の取締役から会社を譲っていただくという厚意に預かり、有限会社BMTプロダクション・カナンとしてスタートすることができた。「法人格がないと、業界ではビジネスを展開することが難しい」と話すように、ここでも「人」を通じて出会いが与えられた森重さんがいた。
森重さんは日夜営業にいそしみ、事務所ではプロダクション業務だけでなく、イベント企画から映像制作、タレント派遣にデザイン業までこなしている。DVDやアニメーションにも精通し、高いスキルを持ち合わすスペシャリストでもある。カナンは旧約聖書の約束の地。クリスチャンも、そうではない人も、「導き」を感じてほしいと語る。
カナンの運営の特徴は、会社代表である森重さんがクリスチャンであり、仕事も霊的に良くないものをカットしていく。演技や性質上グレーゾーンは確かにあるが、そこは信仰で見極めていく。実際に仕事は減るが、自分たちに合ったものが提供され、結果的に良い仕事ができるという。「よい環境が大事」と語る。
どのようなきっかけで、芸能界に入ったのか
芸能界に入ったきっかけについて森重さんは、「ディズニーが大好きな母親の影響だと思います」と目を大きくしてうれしそうに話す。実際にたくさんの芝居も見たそうだ。「僕はアニメ好きでお芝居も好きという、一番とっつきにくいタイプですね(笑)」。森重さんの会話にはユーモアが溢れている。
3歳から芸能界にいるが、現在は三豚隊(さんとんたい)というお笑いコンビの2代目として現役で活躍中だ。当時人気だったバラエティー番組「DEBUYA」で、石塚英彦さん(ホンジャマカ)の「まいう~」(おいしいの業界用語)が流行。同番組で初代「三豚隊」が、まだ無名のふとっちょ3人組で結成された。その流れをくんで、現在は森重さんら3人でCMや番組出演、ライブなどを行い、ファンを魅了し続けている。
プロダクション・カナン
カナンの所属タレントは現在5人。そのうち2人はクリスチャンだ。ボランティア劇団「ぴゅあシアター」を務めながら、児童福祉施設なども回っている。森重さんは「この業界は決して楽ではありません。たくさんの葛藤がありました」と告白する。特にクライアントからの依頼をどう引き受けるかがポイントのようだ。
森重さんは「プロダクションは仕事の案件が入ったら、選ばずに引き受けるのが常識」だという。しかし、信仰第一のカナンは他と違う点があると紹介してくれた。
森重さんは、ヤクザ映画などは本当に暴力団が出入りしているケースもあって、慎重に見極めないといけないという。信仰とさじ加減で、より質の高い仕事をもらえるように努めている。
若いタレントには「大丈夫。仕事はちゃんとありますよ」と励ます。所属タレントはユニークなキャラクターぞろい。森重さんは、「変わった人を集めています(笑)。美人やイケメンはたくさんいますが、変わった人がいてもいいかな」と、聖書の中に出てくる人物もキャラが強烈だと笑いながら話す。
ミッドナイトチャーチへの思い
森重さんは芸能界にセルチャーチ的な存在を作りたいと考えている。特定の宗教色が強い芸能界は、その組織の力が強く「慈愛の精神」を説くそうだ。では、クリスチャンの世界はどうなのか。自分の教会で同業者に出会う率は低い。仲間がいないのだ。結局、孤独化していくのではないか。
森重さんはミッドナイトチャーチへ熱いビジョンを抱く。それは、芸能人のための「礼拝」だ。現在通っている市川教会で「牧師になりなさい」と示されたと証しする。「世の中には土日に仕事をしている人は大勢います。そんな人にも御言葉を伝えたいし、芸能関係者には芸能と絡めた話をしていきたいです」
クリスチャンが役者として続けていくには、実体験こそ一番の糧になる。「皆、天国へ行ってもお芝居を続けようね」と笑いながら語る。聖書が自分のものにならない人には「台本を読むのと同じように、場面を想像して読むと心に入るよ」とアドバイスする。
森重さんは、「ビジョンのミッドナイトチャーチはスタートしていませんが、所属教会の牧師に相談し、日曜説教の原稿を事前に頂いて仲間とシェアできました」とうれしそうに話す。また、「少しずつ事務所でも人を集め、展開していきたい。この活動を通じてたくさんの人が救われてほしい」と願う。
「事務所であるカナンも教会的な機能を持てるようになれば、ハウスチャーチ(家の教会)もできる。ここは駐車場もあるし、6畳のスペースもあります」
共にパンを裂くという聖書のワンシーンを思い巡らしながら、森重さんは「芸能界を目指して葛藤する子たちがいます。彼らをバイト暮らしから救い出し、カナンでタレントとしてやっていけるよう備えていきます」と話す。共同体としての志だ。
芝居の世界に区切りを付けて、伝えたいこと
「お芝居を通じて、今の世界に忘れられている感情を思い起こしてほしいなと思います」と森重さん。その感情とは、目に見えない愛であり、ゴールは救いだと話す。「芸能界の中に特化した宣教の先駆けとなりたいです」
森重さんは「神様が自分の思いを抑え、今回、芝居の世界に区切りを付けました。自分も43年間続けてきましたが、芸能活動をしているまだ救われていない方たちのために無期限休止しました」と続ける。「ですから、救いのために召されたのかなと思います」。事実、森重さんは先日の舞台を最後に、芝居は無期限休業に入った。
森重さんとのインタビューを終えて「人を通して働かれる」神の業を感じることができた。芸能界という特別な世界。人を楽しませる彼らの存在は、時に希望、時に大きな流行となり、社会に影響を与える。
CM効果といわれるように、芸能人の存在は日本の経済に大きなプラスとなるエンターテイメントだが、並々ならぬ努力と葛藤、試練に耐えながら、やはり「壁」にぶつかることがある。
森重さんの祈りとプロダクションの経営を通して1人でも多くの人が救いに導かれ、その働きが「地の塩・世の光」として広がっていくことを期待したい。