今回は創設以来20年にわたり台湾でキリスト教主義の社会福祉事業に取り組み、フードバンクや貧困家庭への支援、災害支援活動で大きな実績を上げている社団法人中華基督教救助協会(台湾・CCRA)を訪問し、副秘書長の鄭夙珺(英名:グレイス・チェン)氏に話を聞いた。
救助協会はキリスト教精神に基づくオリジナルの運営方針を掲げ、その内容は60ページに及ぶ(日本語訳有り)。国内のキリスト教会の一致と社会に定着する福祉事業の展開を目指す。
同団体と親交が深いセンド国際宣教団の林婷(リン・ティナ)宣教師がインタビューで同時通訳を担当した。林宣教師は塩釜聖書バプテスト教会(宮城県多賀城市)で協力宣教師として活動をしている。グレイス氏に、中華基督教救助協会の取り組みについて聞いた。
中華基督教救助協会について
中華基督教救助協会は1998年10月に設立し、約20年間にわたり救助、社会福祉に取り組んできました。今でこそ、災害があれば海外に出向きますが、当時の台湾教会は牧会中心で、社会貢献や支援という活動にまで関心が至りませんでした。
台湾は災害が多い国ですから、被災経験を通し「教会は外へ出て行って支援活動を行おう」という思いが与えられたのです。このようにして活動がスタートしました。
聖書の教えは、福音を地の果てまで伝えることです。もう1つは「心を尽くし、思いを尽くし、知力を尽くして、あなたの神である主を愛せよ」(マタイ22:37)。この2つを掲げています。
聖書は「隣人を自分のように愛しなさい」と教えています。では、隣人とは誰のことでしょうか。隣人とは、ニーズのある人です。必要としている隣人(弱い人)はどこにいるのでしょうか。台湾にも日本にもいるでしょう。中東のように遠い国にもいます。ですから、災害が起きれば、私たちは支援に行くのです。これが救助協会です。
日本人は一番の隣人 3・11を通じて台湾は大きく変わった
グレイス氏は、台湾の隣国といえば日本であり、それくらい日本との関係は大切だと強調する。
「東日本大震災(2011年3月11日)では、台湾人も大変な衝撃を受けました。朝から晩まで震災の報道一色であったことを記憶しています。私も日本の被害状況を知りショックを受けました。日本の大震災後に、台湾では旧政権下で大規模なチャリティー運動が行われました。ほぼ同時期に、国内のさまざまな団体が日本のために義援金を募ったのですが、最終的に台湾全土で集まった義援金は計200億円を超えました。この額は、台湾で史上最大額といわれています」
全体を通して集まった200億円という義援金は、主に台湾赤十字、ワールド・ビジョンを通じて日本へ寄付されている。このプロジェクトには、民間NPOや仏教界、新興宗教も加わり、国民の社会貢献、福祉への意識が高まるきっかけになったという。過去に起きた台湾大地震では、日本の救助隊が現地で活躍したことも影響していることだろう。
グレイス氏は元ワールド・ビジョン台湾の職員で、本インタビューに同席した張謙方(チャン・チェンファン)部長の妻は現役で働いている。本紙代表取締役の峯野龍弘会長はワールド・ビジョン・ジャパンの名誉会長を務めており、救助協会としてもつながりがあることを喜んでくれた。
「私たちも、これほどの義援金が集まったことに正直驚きました。人口が約2350万人足らずのこの国が、ここまでできたからです」
グレイス氏は、台湾人がなぜここまで日本の震災支援に協力できたかについて、2つの理由を述べた。1つ目は、親日国であるという理由だ。台湾と日本はビジネスだけではなく、文化交流も盛んだ。多くの若者は、日本に「憧れ」の思いを抱く。もう1つは、地理的な理由だという。グレイス氏は、お互いに近い国として、今後の協力関係は欠かせないと話す。「日本は経済大国であり、他国を支援できる立場にあります。私たちとしても、日本でNPOなどがさらに活発化し、社会福祉、支援への意識が高まることを期待しています」と述べた。
大事なことは教会が主体となって地域に仕えていくこと
「台湾を見てください。小さな島国ですが、大きなことができました。教会も同じではないでしょうか。力は小さいが、大きな影響力を作り出すことができます。今、救助協会は台湾の教会が1つとなって福祉に取り組めるよう、活動をしています。国内のキリスト教会は4千ほどですが、協力関係にあって実際に社会福祉に取り組んでいるのは1122の小さな教会グループです」
救助協会の活動の特徴は、教会が主導となって福祉を行うという点だ。サポート(指導、訓練、提供)を行いながら、地域とのパイプ役を果たしている。
1919計画とは
救助協会は、オリジナルの事業計画を掲げている。1919計画という4つの取り組みだ。実際にどのようなものなのか。分かりやすく説明してもらった。
1. 災害支援
「1つは災害支援です。設立以来、37回の大きな災害支援に行きました。台湾国内の例では、1999年に2400人以上の死傷者を出した大地震が発生しました。最大で震度7という一番大きな地震でした」。台湾国内の大地震を機に、2008年の四川大地震(中国)やハイチ地震、東日本大震災、ネパール地震など、海外の震災にも支援の手を差し伸べている。グレイス氏によれば、台湾国内は台風被害が多く、実際に出動する頻度は多いという。
2. 緊急の義援金
事故などが起きて緊急にお金を必要とする家庭への経済支援。実際に年間で千以上の家庭を支援しているという。手順として、最初に約6万円をひと家庭に支給する。合計4回を1年間で支援していく。国内の1313の提携教会を通じて、問題が起きた家庭について連絡が入る。ポイントは、家庭への対応は全て教会主導で行い、救助協会が前面に出ることはないということだ。「彼らに教会を知ってもらうことが目的だからです」。統計によれば、支援を受けた家庭の3分の1は、教会に通うようになったという。この働きは13年間続き、これまでに約1万以上の家庭を支援している。
3. 放課後の学童支援
放課後に教会を開放して学童保育を行う。内容は宿題、勉強を中心に、必要に応じて社会性を育む教育プログラムや食事も提供している。ここでの提携教会は221。小学生は1人当たり毎月1200元(約3600円)、中学生は毎月2千元(約6千円)を提供している。「支援している小学生は2300人。中学生は500人ほどです。この活動は12年目になります。約3万人の学生をフォローしてきました」
学童保育は週に4回行い、土日に来る子たちもいるという。「教会が責任を持って対応するよう指導しています」。グレイス氏は、教会と家庭間の関係を強調する。ここで対象となるのは、貧困家庭の子どもたちだ。
4. フードバンク(食料銀行)
フードバンク(食料銀行)は2カ月に1度、1500人のボランティアが一斉に配布していく。実際にどのような物が支給されるのだろうか。「台湾元で2500~3千元ほどの米、麺類、ミルク、日用生活品などが入っています」。この取り組みは高雄市、台中市、新竹市、台北市、台東市、花蓮市の6カ所で実施されている。441教会が提携し、4500の家庭に配布されているという。フードバンクはここ数年、日本でも注目されている取り組みだが、グレイス氏は行政の福祉制度における日本との根本的な違いについて、次のように語る。「日本では生活保護を申請した場合の受給率は高いですが、台湾は申請が下りる基準が厳しく、本当に苦しんでいる人に支援が回らないという現象が起きています。ここは大きな課題です」
1年に1度「対象世帯」の情報を更新し、各家庭のニーズを確認しながら教会と密に連絡を取り、情報を管理している。行政と連携して活動している訳ではない。その理由についてグレイス氏は、「行政が個人情報を開示しにくいために家庭の状況を把握しにくい」ためと説明する。もちろん、事業を展開していく中で行政と協力できたらという思いもある。
「救助協会が入っているビルは、3つの協会が合同で運営しています。スタッフは全部で90人ほど。救助協会は50人おり、互いに協力しています。台湾国内で6つのオフィスを持っています」
フードバンクはステーション化することで活動拠点を広げていくことができる。実際にインタビュー当日も、スタッフは視察に出ており、需要の高さを感じる。特にフードバンクは、受け渡しのチェックが徹底されている。質の高いサービスとしては、台湾では初の試みだという。この取り組みは、既に日本やモンゴルでも始まっている。
救助協会の活動資金は、教会からの献金、個人からの支援金により成り立っている。この大きな活動を継続するためには、今後もスポンサーは欠かせない。国や行政からの補助を受けていないためだ。
グレイス氏は、「全て自主的な募金で運営している。今後はぜひ日本からも経済的な支援をお願いしたい」と語る。今年の予算は2億2千元。日本円で約6億円だ。
ビジョンについて
最後に救助協会のビジョンについて語ってもらった。
「私たちにはビジョンがあります。台湾だけでなく、これからは海外にも発展していきたいです。来年は中国大陸のどこかで働きを始めたいと思っています。台湾国内ではフードバンクのステーション化を進め、より大きな場所を必要としているので、いずれ政府と協力できるまでになれれば良いと考えています。クリスチャンは地の塩、世の光ですから、輝く存在でいたいです」
救助協会と日本の教会の関わり
救助協会は、東日本大震災直後に東北の被災地支援として、合計3千万円近い義援金を清瀬グレースチャペル(基督聖協団)とセンド国際宣教団に送っている。当時は日本側と連絡手段を持たなかったが、救助協会側から支援についての要請があり、本インタビューの通訳者でもあるリン宣教師を仲介して日本側と関係を構築した。震災直後から、フードバンクの支給品と活動に必要な装備品が台湾から教会に送られ、教会員が手分けして梱包作業に取り組んだ。
以降、日本でも救助協会からの提供を受け、被災地の支援(フードバンク)を展開。数年にわたり実施された。そのノウハウは、東北で宣教師たちを通じて教会や支援団体で生かされ、各所で大いに用いられた。
1つの例を紹介する。2011年、震災直後に発足したキリスト教震災復興団体「ホープみやぎ」。翌年に救助協会の援助でフードバンク事業を開始した。途中、センド国際宣教団の支援が加わり、2014年には団体が台湾を訪問し視察。2015年9月に「NPO法人いのちのパン」を創設した。食べ物と共に「こころ」を運ぶ活動だ。現在も地域に定着し、フードバンク事業を展開している。
「フードバンクは日本でどこまで浸透するのかは未知数」との関係者からの意見もあった中で、日本国内では民間だけでなく、行政も立ち上げに至るなど、取り組みの輪が広がっていることは事実だ。日本でも「子どもの貧困」は、いまや深刻な社会問題となっている。
日本は地震大国であり、今後どのような地震に見舞われるか予測がつかない。震災を通じて台湾と日本が協力し合い、先に述べたように国交がない状態でも助け合いの輪が加速していくならば、両国の未来はより明るくなると信じ、期待していきたい。台湾から日本の地に届いた温かな思いを、次世代に引き継ぎでいきたい。
取材を終えて
本インタビューを通じて、遠い地で兄弟姉妹が互いに助け合い、神の愛を届けてくれた恵みに感動を覚えた。救助協会が世界中でまさに「地の塩、世の光」として社会に貢献していることを知り、できることから協力の輪を広げていきたいと思わされた。救助協会の取り組みと、台湾の温かな支援に感謝したい。
団体の紹介(ホームページより抜粋)
創立趣旨:台湾全土のキリスト教会の力を集結し、社会支援、救助と社会福祉活動を行う。
信仰理念:喜ぶ者といっしょに喜び、泣くものと一緒に泣きなさい。ローマ12:15
主な事業内容
1. 災害支援
2. 緊急危難家庭への支援
3. 貧困家庭の児童の放課後・学童
4. 「1919」フードバンク
基督教救助協会は2003年から「1919社会福祉」と「救助支援ネットワーク」を立ち上げた。2016年(5月現在)までに、台湾全土の281の地域のローカル教会と提携して1313カ所の1919ステーションを設立。1万2千人以上のボランティアを訓練し今に至る。地域に災害が起きるとボランティアを派遣し救助を行う。彼らボランティアは普段は自分のコミュニティーで「1919緊急危難家庭の支援」と「1919貧困家庭の児童学童」と「1919フードバンク」を行っている。
<支援金送金先>
銀行名: CATHAY UNITED BANK
YONGCHUN BRANCH
住所: NO.687,SEC .5,ZHENG SIAO E.ROAD
SYNYI DISTRICT,TAIPEI CITY 110
TAIWAN,R.O.C
口座番号: 078-50-400347-6
口座名: CHINESE CHIRISTIAN RELIEF ASSOCIATION
SWIFTコード: UWCBTWTP (金融機関コード)
※送金前に銀行窓口で1度送金手順をご確認ください。
※協会には日本語を話せるスタッフはいません。Eメール([email protected])で問い合わせの際は英語か中国語でお願いします。