KKK(クー・クラックス・クラン)といえば、白い目出し帽子の三角頭巾にワンピース状の白いローブをまとい、炎の十字架を掲げて黒人たちをリンチして回る恐ろしい集団、というイメージがあるのではないだろうか。
映画「ミシシッピー・バーニング」や「マルコムⅩ」などに登場する彼らの風貌、そして言動は、見る者にも恐怖と怒りを覚えさせる存在である。また本書でも紹介されているが、2016年2月に「KKKの騎士(KKKの現代的名称)」の元代表デヴィッド・デュークは、トランプ氏支持を早々と表明した。
トランプ氏の負のイメージが私たちに影響を与え、両者に頑固な乱暴者というレッテルを貼ってしまいたくなるだろう。しかし本書は、そんなKKKへの私たちの偏見を喝破し、彼らの起源から現代までをコンパクトにまとめた新書である。一言で言うなら、私たちの勝手な思い込みを訂正してくれる1冊であると言っていい。
KKKはもともとは牧歌的で道徳的な集団だった!?
思い込みへの指摘は、細かな点にまで及ぶ。例えば、燃え盛る十字架は何のためか? 一見すると、十字架を燃やしているのだからキリスト教に反対していたり、黒人たちに慈悲を投げ掛けるキリスト教会に対抗しているようなイメージを受ける。
例えば国旗を燃やしたり、気に入らない政治家の人形を燃やしたりするのと同じで、十字架も燃やしているのだろうと考える。ところが、これが全く正反対であった。十字架を高く掲げ、目立たせるために火をつけているのであって、決して燃やしているのではない。
ということは、ある時期のKKKの指導者層は牧師やキリスト教関係者が担っていたということである。
また、白装束を身にまとっているため、白人男性の秘密結社的なイメージがあるが、実はそうではなく、女性のKKK、そして子どもたちのKKKまでも存在していたということが分かっている。
もちろん、1950年代以降の公民権運動に反対したKKKは白人男性(南部のWASP)が中心であった。しかしKKKには3つの時代が存在し、おのおのにKKKが目指していたものを知るとき、実はとても牧歌的で道徳的な集団という一面が見えてくるのである。
米国における「秘密結社」の必要性と意義
そもそもKKKは、19世紀半ばの南北戦争後に米国南部で結成された秘密結社である。「秘密結社」という響きが、「世界征服のために暗躍する悪の組織」というイメージを私たちに与えてしまう(決して「仮面ライダー」に罪はないと思うが・・・)が、実はこの概念は米国では必要不可欠な存在であった。
それは、西部開拓時代、全く頼るべき親族も友人もいない中で、人々はこの秘密結社に属することで日常の必要が与えられていたのである。だから現代でいうなら、ボランティア団体のようなものが個々人を支えていたということになる。
KKKもその1つとして生み出された。その中心を担ったのは、南軍の元従軍兵士たちであった。3章で描き出されるKKKの歴史はどこか牧歌的で、エンターテインメントに満ちている。
戦争後、停滞しがちな南部の町を活気づけようとして結成されたKKKには、具体的な敵が2つ存在した。1つは、戦争で勝利した北部人である。彼らが勝手に自分たちの土地にやって来て、今までのシステムを変えていくことが、南部人にとっては我慢ならなかったのである。
そしてもう1つが、北部人のシステムによって解放された黒人であった。しかし19世紀後半の段階では、むしろ北部から流れ込む近代化に対する嫌悪の方が強かったようで、同じ気持ちを共有した南部人は、こぞってKKKに入会したということである。
面白いことに、白いフードというのは最近のことで、実はKKKは伝統的に緋色をモチーフにしていたということも、本書では挿絵付きで紹介してくれている。やがてKKKが暴徒化し、ついに国家的な取り締まり法案がなければ抑制が効かなくなっていくさまは、読んでいて決して過去のこととは思えないリアリティーがあった。
KKKの隆盛と衰退
4章からは、米国が独立を勝ち取って以来、南北でいかに考え方の違いが生み出されてきたかを浮き彫りにしながら、KKK誕生の歴史を立体的に見せてくれる流れになっているため、大変読みやすい。
1915年に公開したD・W・グリフィス監督の「國民の創生」で描かれたKKKのイメージがきっかけとなり、第2期のKKKが生み出されたというあたりは、いかにもハリウッドの黎明期と米国の歴史が連動していたかがよく分かる。そしてメディアがいかに歴史を創作してきたか、というアイロニカルな過程を私たちに示してくれる。
アグロサクソンの優位性と異人種(黒人のみならず、新移民に対しても)を排斥する目的で、KKKが再び活性化するさまは、現代米国のトランプ現象とも重なる、と筆者は指摘している。
5章では、米国が常に他者に「同化」を迫り、それがうまくいかないと「排斥」へと容易に流れてしまう傾向を内包していることを詳述している。1924年には、KKKの会員数が数百万人に膨れ上がる。それだけWASPの優位性を叫ぶ必要があったということだろう。しかし、移民制限法が同年に制定され、1929年に大恐慌が発生するに至って、会員数は激減する。
米国南部人の心象風景と思考法の表れ?
このような流れでKKKの歴史を見てくると、これは単に1つの秘密結社の栄枯盛衰物語ではなく、米国南部人の心に描き出されたものが何であったか、ひいては米国人が内面ではどのような思考法で物事に向き合っているか、を分かりやすく伝えてくれる著書となっていることに気づかされる。
本書の帯に掲げられている「排外主義の火はなぜ消えないのか」という文言は、今の米国を端的に表した言葉だともいえるし、だからこそこの時期にKKK関連の新書が発売されたのだともいえる。
トランプ現象は、ついにトランプ大統領を生み出した。そして、来年から米国は、大きな転換期を迎える。しかし、本書を見るなら、米国はこのような「同化」と「排斥」の狭間で歴史を紡ぎ出してきたのであり、決してトランプ現象は珍しいことではない、ということが分かる。
本書はこのことを間接的に、そして俯瞰(ふかん)的に示してくれる1冊といえよう。トランプ現象に興味を持つ方なら、何かきっと発見できる良書である。
浜本隆三著『クー・クラックス・クラン 白人至上主義結社KKKの正体』(2016年10月、平凡社新書)
◇