「アラフォー」「非正規」「シングル」「子どもなし」・・・「気が付けば崖っぷち」。女性たちの貧困の現実をまとめた『ルポ 貧困女子』(岩波書店)。
「ニート」「フリーター」「ワーキングプア」「ネットカフェ難民」などの言葉がメディアでもたびたび取り上げられている。彼らの人物像はたいていの場合、男性である。これは「若い男性に職がない、または家庭が築けない」という絶大なインパクトを世間に与えるからではないかと著者の飯島裕子さんは語る。
しかし、彼らと同じような境遇で、「生きづらさ」を感じている女性たちが、社会の片隅でひっそりと暮らしていることをどれくらいの人々が認識しているだろうか。中には「家事手伝い」といった言葉でカテゴリー化され、古くは「花嫁修業」などといった言葉の影で、家族との関係に悩んだり、周囲の人々の心ない言葉に傷つきながら生きている人もいる。
メディアでは、貧困のため性風俗産業で働く女性などがしばしば取り上げられる。センセーショナルな物語が展開される場合も少なくないが、そのような報道がなされるほど、問題の根っこにある貧困の実態が見えにくくなる。
同著では日々を平凡に、しかし必死に生きているさまざまな女性たちの貧困が丁寧に描き出される。同著をもとに、13日、横浜YWCAで飯島裕子さんが講演会を行った。
専門紙の新聞記者等を経て、ノンフィクションライターになった飯島さん。「就職氷河期世代」ゆえにごく身近なところに「貧困」があると感じていたという。現在は、大学の非常勤講師をしながら、ホームレスの自立を支援することを目的とする雑誌「ビッグイシュー日本版」などでも記事を執筆している。
飯島さんは2011年、ちくま新書から『ルポ 若者ホームレス』を出版。50人の対象者に聞き取り調査をし、彼らの現状をまとめた。「取材を重ねていくうちに、男性の声ばかりを聞き取っていることに気付いた。女性の声をもっと聞きたいと願っていたが、なかなか彼女たちの姿は見えてこない。しかし、データを見ると、若年層(15歳から34歳)の女性の2人に1人が非正規雇用とある。こんなに大変な状況であるのに、『なぜ彼女たちの困難は見えてこないのか?』と考え始めたのが、『ルポ 貧困女子』を書くきっかけとなった」と講演の中で、飯島さんは話した。
2012年から始めたインタビューでは、16歳から47歳までの非正規雇用もしくは無職で年収200万円未満のシングル女性を対象にした。最終的に47人の女性にインタビューを行ったという。「初めは、47人もの方々にインタビューをするつもりはなかった。しかし、対象者を探しているうちに、この条件に当てはまる女性は私たちの周りに大勢いることに気付いた」という。
講演では、同著にも登場する女性について話した。大学を卒業した36歳の女性Aさんは、設計事務所に入社したが、過労のため退職。その後は派遣社員として働いている。正社員として働きたいと思うが、過労で退職した過去を考えるとなかなか一歩が踏み出せない。実家で暮らしているが、家族との関係がうまくいっておらず、彼女にとって安心できる場所ではない。、不安定な非正規雇用では、ひとり暮らしをするほどの余裕はない。
「最近も過労から自殺に追い込まれた女性のことが報道されていますが、新卒でいわゆる“ブラック企業”的な会社で身も心もボロボロになり、退職に追い込まれる女性が大勢います」
きちんとした職があっても、「自立できるほどの収入」を得られない場合もある。
「最近では、たとえば図書館司書や大学職員など、女性が多く就いている仕事で、非正規化が進んでいます。『官製ワーキングプア』という言葉に代表されるように、安定していると考えられていた職場でも雇用の崩壊が進んでいるのです」
現在、働く単身女性(20~64歳)の3人に1人は年収110万円を下回る貧困状態である(2006年統計)。さらに非正規で働く若年女性の4割が年収200万円未満という統計もある。男女の賃金格差を見てみると、男性正規の賃金を100とすると、女性正規は70・9、女性非正規はその半分の50・5だ。こうした状況から、非正規で自立に足る賃金を得ることは容易でないことがうかがえる。
「若年男性の非正規雇用化が進むずっと以前から、女性の非正規雇用率が高く、賃金も低かった。しかし、問題視されてこなかったのは、男性は外で働き、女性は家事・育児をし、家計補助的に働く“男性稼ぎ主モデル”が根強くあったためと考えられる。しかし、現在、未婚率の増加や男性雇用の不安定化などによってこのモデルは崩壊しつつある。こうした状況の中、女性の貧困が徐々に顕在化してきたといえる」と飯島さんは語る。
しかし「男性稼ぎ主モデル」が崩壊しつつある中にあっても、人々の価値観が容易に変わるものでもない。「アラフォー」「非正規」「シングル」「子どもなし」という自身の状況に苦しんでいる女性もいる。働き、子を産み育てることを後押しする女性活躍推進の動きも、彼女たちを追い詰めている。
「今の世の中、若年女性に限らず、多くの人が生きづらさを抱えているはず。『生きづらさを抱えている人』がいたら、共に声を上げていくことが、社会を変えていく一歩になるのでは」と講演を結んだ。
カトリックの家庭で育った飯島さんは、講演後、本紙のインタビューに対して、「教会は彼女たちにとって居場所になっているか? 教会には例えば、『教会学校』『子育て母親の集い』『青年の集い』などはあっても、未婚女性が参加できるグループは果たしてあるだろうか。すぐにそうしたグループを作ってほしいという意味ではなく、想像力を働かせて、教会の中で居場所がないと感じている人がいないかどうか、見渡してもらえたら」と話した。