一昨年、創立100周年を迎えた横浜YWCA。キリスト教を基盤に、世界中の女性たちと共に言語や文化の壁を越えて、女性の社会参画、人権、健康、環境が守られる平和な世界の実現を目指すNGO団体だ。
1月31日には、公開講座「女性と貧困~シングルマザーの現状から~」を、横浜市中区にある同館内で行った。講師は、NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長の赤石千衣子さん。赤石さんは約30年前、非婚のシングルマザーになった。共同保育の保育士、女性団体の編集の仕事を経て現職に。シングルマザー当事者として、シングルマザーと子どもたちが、生き生きと暮らせる社会を目指し、活動を続けている。著書も多数あり、2012年にNHKが制作したドラマ「シングルマザーズ」に取材協力するなど、精力的に活動をする中で、次々と出会うシングルマザーの心に寄り添い続けている。
厚生労働省の調べによると、日本の貧困率は16・1%と過去最悪の数値になっている。女性は、年代に差がなく、ほぼ全ての年代で、男性に比べて貧困率が高い。中でも、高齢単身女性、母子家庭、若年単身女性の貧困が目立つ。母子家庭の貧困は、働いても低賃金であることが原因の一つだと考えられている。母親の貧困は、子どもの貧困を招く。しかし、母子家庭に対する世間の目はいまだ厳しい。
赤石さんは、「本当に困っている人は、なかなか声を上げない。さらに、本当に困っている人のところにも支援が届かないのが現状」と話す。世界のシングルマザーの就労事情を見てみると、米国73・8%、英国56・2%、フランス70%であるのに対し、日本は80・1%と他の国よりも高い。「よく働いているのに貧困」といった構図は、日本が抱える大きな問題といえる。さらに、養育費を受け取っている母親は、全体のわずか19・7%。平均は月額4万3482円だ。養育費については、法的な取り決めがなく、現状支払わなくても罰則がない。
一方、女性の就労について、日本には典型的な姿が見られるのという。それは、「M字曲線」と呼ばれるもので、20代くらいから働き始めて、30代になると一気に女性の就労率が下がり、40代くらいからまた働き始める女性が多いというのだ。休職あるいは退職の主な理由が子育て。こうした現象は、欧米では見られず、「日本特有のものではないか」と赤石さんは言う。また、最近では働く女性は増えたが、非正規雇用が多く、「収入が安定しない」と話す人も多いという。
現在、シングルマザーは、離婚が81%、非婚が7・8%、死別が7・5%となっている。「この結果だけを見ると、離婚するのは夫婦の努力が足りないから。いわゆる『自己責任』だという言う人がいます。しかし、離婚の原因を見てみると、相手の異性関係、暴力を振るわれた、精神的苦痛を受けた、生活費を渡さない、などが多くの割合を占め、決して『自己責任』の範囲ではなく、子どもや本人の身を守るためやむなく、といった方が多いのです」と赤石さんは話す。また、最近では、出産後に夫婦仲が悪化する「産後クライシス」から、離婚に至る場合もあるという。
小さな子どものいる母親が離婚して、「すぐにでも働いて、収入を・・・」と考えるのは、普通だろう。しかし、それを阻むのが、全国的にも問題になっている「保育園不足」である。公的保育は、慢性的に足りない状態が続き、病児、病後保育は、どの市町村も受け入れ数が少なく、利用しにくい。残業や出張などにも出ることができず、「職場の人に迷惑になるから」と安定している正社員を諦め、アルバイトやパートをかけもつシングルマザーも多い。
昨年、シッターサイトを利用した横浜の母親が、結果的に子どもをベビーシッターに殺されてしまった事件を例に挙げ、赤石さんは「この時、母親への非難が集中した。しかし、この母親は、子どものことを考えていなかったとは思えない。最終手段として利用したシッターサイトで、このような事件に巻き込まれたのではないか。それを考えると私は胸が痛い」と言って、声を震わせた。
「ひとり親も立派な家族。お父さんがいて、お母さんがいて・・・という幻の家庭像にとらわれないでほしい。最近は、民間の支援団体も多く存在する。一人で悩まず、周りに相談を」と話した。
横浜YWCAでは、暴力を受けた女性のための支援や女性相談を行っている。詳しくは、問い合わせを(電話:045・681・2903)。