国際基督教大学(ICU、東京都三鷹市)は2日、スーパーグローバル大学創成支援事業における取り組みの一環として、公開シンポジウム「海外英語研修―学生の多様な英語力と個々のニーズに対応したプログラム開発―」をICU東ヶ崎潔記念ダイアログハウス国際会議室で開催した。国際教育に携わる大学機関の教職員、中学・高等学校教育関係者など約80人が集まった。
日本初のリベラルアーツ・カレッジとして大学の国際化を牽引(けんいん)してきたICUでは、毎年230人以上の学生を送り出すSEAプログラム(Study English Abroad Program、海外英語研修プログラム)を実施している。今回のシンポジウムでは、SEAプログラムの研修校先のディレクターやコーディネーターが来日し、それぞれの特徴ある英語研修プログラムについて紹介した。
シンポジウムの冒頭で、ICU学長の日比谷潤子氏がICUにおけるバイリンガル教育について説明した。日比谷氏は、ICUが少人数教育を堅持し、徹底した日英のバイリンガリズムの環境の中で、多様な背景を持つ学生や教員が共に学んでいることを述べた。その上で、ICUのさらなる国際化の取り組みとして、英語で考える力と書く力を伸ばすこと、また、学びを深めるために、SEAプログラムを含めた多様な海外留学制度があることを紹介した。
続いてICU教授でリベラルアーツ英語プログラム主任の岩田祐子氏が、ICUが目指すグローバル教育の取り組みとして、ELA(English for Liberal Arts Program、リベラルアーツ英語プログラム)とSEAプログラムについて説明した。
ELAは、学生の英語力を向上させると同時に、ICUで効果的に学ぶための思考力とアカデミックな英語力を養うことを目的とした英語教育プログラムで、1年次の大半を費やして行われている。学生の習熟度に応じて課程(Stream1~4)が決まり、各課程内約20人ずつのクラスに分かれ、週5コマから12コマの授業で、多様な種類のアカデミック・スキルを英語で学んでいく。集中的に英語を学び、ICUの授業を英語で学べる力を修得し、さらに学問を学ぶために必要な批判的思考力や学習スキルを習得させるという。
そして、今回のシンポジウムのテーマともなっているSEAプログラムは、英語運用能力を伸ばすことを目的にICUが開発した1年次と2年次の希望者を対象とした6週間の海外英語研修プログラム。夏休みを利用して行われるこのプログラムには、毎年1年次では3人に1人が参加している。異文化を体験しながら集中的に英語を学ぶことにより、視野を広げ、コミュニケーション力を身に付け、さらに内面的な成熟をももたらす機会となっている。
SEAプログラムの大きな特徴は、単に海外の大学のサマースクールに参加するというものではないことだ。ICUが受け入れ先となる各研修校と協定を結び、国の特色を生かした特別カリキュラムが組まれている。各研修校で修得した単位は、ICUでの履修単位として認められる。
また、各研修校と連携し、参加学生から得たことを常にフィードバックしながら合意事項の改善を図るなど、学生にとってより良いプログラムを作っていることもSEAプログラムの魅力だ。岩田氏は、SEAプログラムで得られた経験がELAの中に生かされていることを述べ、「常にプログラムを批判的に検証し、プログラムの質を上げる努力をすること、パートナー大学とのコミュニケーションが大切」と語った。
SEAプログラムには、1年次を対象とする「フレッシュマンSEAプログラム」と、2年次を対象とする「ソフォモアSEAプログラム」がある。1年次では、カナダ、米国、オーストラリア、アイルランド、英国の5カ国11校で行われ、2年次では、カナダ、米国、英国の3カ国4校で実施されている。いずれの研修校においても、世界各国から集まる英語学習者のための英語研修プログラムに参加し、さらに各研修校の特色あるプログラムで英語力の向上を目指す。
シンポジウムでは、SEAプログラムの研修校のうち4校が、学生の多様なニーズや英語力にどのように対応しているか、プログラム事例を紹介した。登壇したのは、カナダ・マギル大学のケビン・A・スタンレイ(Kevin A. Stanley)氏、米国セント・マイケルズ大学のダニエル・W・エヴァンズ(Daniel W. Evans)氏、米国ワシントン州立大学のアン・ドロービッシュ・シャハット(Anne Drobish-Shahat)氏、英国ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院のマシュー・マーフィー(Matthew Murphy)氏。
カナダ・マギル大学では、8つのレベルに分かれたカリキュラムが組まれ、週に25時間の英語プログラムに参加する。同大があるモントリオールは、ダイバーシティーが尊重され、国籍だけでなく、さまざまな宗教を持つ人や移民も多く、背後にある文化とも関わりながらコミュニケーション力を養っていくという。スタンレイ氏は、プログラムの素晴らしさを強調する一方で、多くの作業をこなさなければならず、努力が必要であることも伝えた。
米国セント・マイケルズ大学は、6週間のプログラムのうち最初の3週間は、コロンビアからの留学生と共に学ぶようになっている。残りの3週間では、さらに多くの人たちと交流し、多様な環境の中でコミニュニケーションを図っていく。教科書による学習だけでなく、文学を通しての英語学習や、ゲストを招いての実践的な学習も行っている。また、映画を使っての会話のスキルアップなど、学ぶ題材を学生が選んでいることも紹介した。
米国ワシントン州立大学のICU生が参加するプログラムは、勉強量も多く、簡単なクラスではないという。ただし、寮生活やレクリエーション・センターなど、十分な教育支援が整い、英語の力をスキルアップできることを強調した。市街地から離れた場所にある同大では、週末にはファーマーズ・マーケット、バーベキュー、ハイキング、乗馬などが楽しめるという。
英国ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院は、普通の学部学生となって学んでいるという感覚が得られることを特徴に挙げた。また、授業とサポートの時間を分け、学生がきちんと理解しているのか確認していくという。その他にも、授業の一環で教員と一緒に美術館などを訪問し、そこで聞いたことを授業に持ち帰り、より知識を深め、最終的に学んだことをグループでプレゼンテーションするという、サイクルを組んだ具体的なプログラムを紹介した。
最後にSEAプログラムに参加した学生らが自らの体験を報告した。1年次の時に参加した男子学生は、6週間のプログラムがハードで勉強三昧であったこと、授業以外ではバスケットボールに参加し、英語を使って友達を作っていったことを話した。交換留学とSEAプログラムの違いについては、「SEAプログラムは英語をどうやって学ぶかに焦点が当てられ、交換留学はELAプログラムやSEAプログラムで得た英語力を使ってアカデミックなことを勉強していく」と語った。現在は、日本の英語学習者にどう英語を教えるべきかについての卒業論文を執筆しているという。
英国を研修先に選んだ女子学生は、SEAプログラムに参加したことで、自分のアイデアや考え方をしっかり持つことの重要さを知り、繰り返し行ったプレゼンテーションにより、人前で話すことに自信がついたと話した。帰国後は、イースト・アングリア大学に交換留学して開発学を学び、難民や移民に関わる仕事をしていきたいという人生の目的が持てたという。留学中は他の学部学生とも公平に扱われ、励まされたことに感謝を述べ、SEAプログラムが参加者の人生に大きな影響を与えるプログラムであることを強調した。