国際基督教大学(ICU、東京都三鷹市)が実施する第6回「グローバル・リーダーシップ・スタディーズ・プログラム(GLS)」のコア・モジュールが10日から、同大キャンパスで始まった。今回さらに進化したGLSには、日本の有力企業21社から23人の受講者と、中国、フィリピン、エジプト、南アフリカ、リトアニアの5カ国6人のICU大学院生、総勢29人が参加し、23日まで2週間にわたって全期間英語のみでの集中研修が行われる。
GLSは、次世代のグローバルリーダーを育成するための、社会人を対象とした集中型全寮制研修プログラムで、2011年に開講して以来、毎年夏季に同大キャンパスにて行われている。日本のリベラルアーツ教育のパイオニアであるICUの特徴を生かし、広い教養と深い専門性を融合させた高い統合能力を培う研修は、参加企業から非常に高い評価を受けており、参加企業21社のうち15社は3年以上続いての参加で、さらに今年は2社が2人を派遣するほどだ。
マネジメントスキルの習得を主とする他のビジネスコースやビジネススクールとは違い、リベラルアーツ教育を礎とする専門分野を超えたつながりに目を開くことを重視したプログラムは、▽社会人のためのリベラルアーツ教育、▽英語によるセッションと生活、▽全寮制、▽多様性、▽GLSネットワークが特徴。これまでグローバルな視点からの多様な思考経路、価値観に触れる機会を提供してきた。
6年目を迎えた今年は、これまでのプログラムをさらに進化させ、従来のGLSの特徴に、プログラムのモジュール化、英語研修の事前集中化、ITを活用したハイブリット化が加わった。その中でも大きな変化は、プログラムのモジュール化で、従来の3週間集中型から、プレ・モジュール(6月17~18日)、コア・モジュール(7月10~23日)、ファイナル・モジュール(9月9~10日)の3部構成で新たに実施されることとなった。
ICUゼネラルマネージャーの山本智巳氏によると、集中期間を分散することで、仕事への負担を軽減さることが大きな狙いだが、それぞれのモジュール間ではIT/Webを活用した英語研修やグループ討議が行われ、トータルスパンでいうと約3カ月となり、参加者は従来よりも長い間GLSのプログラムの中で生活することになるという。
プレ・モジュールは既に修了し、2日間通学による英語研修の事前集中化が行われた。コア・モジュールまでの3週間のインターバルには、「スカイプ」を活用して各自自宅などで英語研修を行ってきたという。また、コア・モジュール修了後から9月のファイナル・モジュールまでの7週間もファイナル・モジュールで予定される最終プレゼンテーションに向けてのディスカッションの場となる重要な期間だ。ここでもIT/Webが活躍することになり、より効率的な研修の形を実現している。
プログラムは、「レクチャー」「ワークショップ」「グループワーク」で構成され、朝9時から夜9時までびっしりスケジュールが組まれている。講師陣は、日本のグローバル企業のトップ、ベンチャーの起業家、ICUの教員の他にも、クロスカルチャーコンサルタントの第一人者であるヨルグ・シュミッツ氏も招聘(しょうへい)されている。ワークショップも、考古学や化学を使っての論理的思考訓練、ゲームを通してチーム間で起きるコンフリクトを乗り越えていく方法を発見するプログラムなど、ユニークなものばかりだ。
今回のGLSの企業からの参加者の平均年齢は37・4歳で、そのほとんどが将来企業の中でグローバルな活躍を期待されている人材ばかりだ。ちなみに英語力は、TOEIC700点以上もしくは同等の英語力の持ち主。参加者は、多彩なプログラムを通して、この2週間で「グローバルな視点・視野」「グローバルな人間力」「グローバルな表現力」を磨き、さらに「英語力の充実」を図っていくことにより、グローバルリーダーとしての資質を備えていくことになる。
また、今年のGLSのキーワードは、「Open Up」「Interact」「Connect」で、山本氏は、グローバルな環境では、開かれた心で英語での発信や対話に挑み、結果として相互の信頼を築くことが重要であると説明した。GLSの最後のプログラムは、9月のファイナルプロジェクト。コア・モジュールの中でグループ分けされたチームごとに、それぞれのテーマについて最終プレゼンテーションを行うことになっており、それに向けて参加者は研修に臨む。
既に始まっているコア・モジュールの講義初日は、日本アイ・ビー・エム株式会社相談役、同大理事長でクリスチャンでもある北城恪太郎氏が「グローバルリーダーシップ」について、イノベーションに焦点を当ててレクチャーを行った。北城氏は、1993年から10年間、日本とアジア地域でIBMの経営トップを務め、その後も経済同友会代表幹事に就任するなど、経営の現場をずっと見てきた。また、経済同友会では、イノベーションによる持続成長を一貫して訴え続けてきた。
レクチャーでも、IBMが業績不振に陥った際、事業構造を大きく変えていった経験や、経済同友会でイノベーションによる新たな成長の実現に向けて活動を推し進めてきたことなどに触れながら、グローバルリーダーを目指す上での20のことについて語った。
最後には、「自由闊達(かったつ)」という言葉を示し、イノベーションが起こる組織が持つ要素として、「明るく」「楽しく」「前向きに仕事をする」ことの頭文字をとった「A(あ)・T(た)・M(ま)」を紹介した。そして、リーダーの情熱とエートスが顧客に価値をもたらすイノベーションを作り出すことになることを語った。
1時間半にわたって行われたレクチャーでは、最後の30分は質疑応答の時間となった。GLSの期間中は、講義、セッションおよび生活全般において日本語は禁止となっており、既にこのことが身に付いている参加者は英語でのディスカッションを自然に行い、終了時間間際まで多くの質問や意見が飛び交った。