本書は、カトリック中央協議会から4日に発行された新刊本。日本カトリック司教協議会『今こそ原発の廃止を』編纂(へんさん)委員会が編集したもので、同委員会は本書について「東日本大震災から8か月後の2011年11月に司教団が発表した脱原発のメッセージを補完して、科学的、哲学的、神学的な裏づけをなす」と説明している。「いますぐ原発の廃止を~福島第一原発事故という悲劇的な災害を前にして~」というそのメッセージは、本書の3~5ページにも収められている。
同協議会によると、この本の内容は、核エネルギー利用の歴史をひもとき、原発事故当事国である日本の責任を問い、核技術に関する科学的・技術的な解説をなした上で、カトリックの教理と現代の環境思想を踏まえた核をめぐる倫理的な考察を展開し、自然エネルギーの可能性や新たなライフスタイルを提案するものだという。
本書は、日本カトリック司教団による「序」で始まる。第1部「核開発から福島原発事故―歴史的・社会的問題」は、第1章「核エネルギー(原子力)の利用と被曝(ひばく)の歴史」、第2章「福島第一原発事故と人間」からなる。第2部「核エネルギー、原子力発電の科学技術的性格」には、第1章「放射線、核エネルギー、原子力発電」、第2章「原子力発電の問題点」、第3章「福島第一原発事故―圧倒的な災害」が含まれている。そして第3部「脱原発の思想とキリスト教」では、第1章「核エネルギー利用についての倫理」、第2章「他教会・他宗教の視点と取り組み」、第3章「自然エネルギーの可能性」について述べられている。また、各部末には、理解の助けとなる補足解説が収録されている。
本書の特色の1つは、第3部第1章で、教皇フランシスコの回勅「ラウダート・シ―ともに暮らす家を大切に」を踏まえ、それが原発問題を考える上で何を示唆するのか論じていることである。現在の環境危機に警鐘を鳴らそうと昨年5月に公布されたこの回勅は、今年の8月に日本語訳が出版されており、それと併せて読むと、本書についての理解がより深まるだろう。
本書はその結論の中で、「日本の政府・企業・メディア・市民への問いかけと呼びかけ」「カトリック教会への提言」を行い、アッシジの聖フランシスコの「太陽の賛歌」でその結論を終えている。さらに、本書の編纂委員会代表である光延一郎氏(上智大学神学部長、イエズス会司祭)による「あとがき」が記されている。
本書の帯には、「未来世代を含めた、すべての『いのち』を守るために」と記されている。本書を読むことで、読者はその意味を深くかみしめることができるだろう。
なお、本書は第3部第2章で、世界教会協議会(WCC)は「世界最大のプロテスタント連合体」(217ページ)であり「世界のプロテスタント5億人を擁する」(218ページ)としているが、WCCには正教会や東方教会も加盟しており、それらの会員数はWCCによれば正教会が3億人、東方教会が6000万人に上っている。また、WCCにその多くが加盟している聖公会の教会員数は、アングリカン・コミュニオンによれば全世界の推計で8500万人とされている。そして、WCCとは別に、世界福音同盟(WEA)は約6億人の福音派プロテスタントを擁している。
日本カトリック司教協議会『今こそ原発の廃止を』編纂委員会編『今こそ原発の廃止を―日本のカトリック教会の問いかけ』(2016年10月4日、カトリック中央協議会、288ページ、定価1800円[税別])