ローマ教皇フランシスコは18日、回勅「ラウダート・シ」を発表した。バチカン放送局が同日報じた。
教皇はこの回勅を通して、地球はわれわれの家であるとして、地球が上げている叫びに耳を傾け、皆の共通の家を保全し、責任をもってその美しさを守るために「方向性を変えていく」よう、「環境的回心」を呼び掛けている(日本語要旨はこちら)。
回勅の表題である「ラウダート・シ」は、アッシジの聖フランシスコの「太陽の賛歌」の中の言葉「ラウダート・シ、ミ・シニョーレ」(「私の主よ、あなたはたたえられますように」の意)から取られている。アッシジの聖フランシスコはこの賛歌の中で、太陽や月、星、風、水、大地など、神がつくられた全てのものを通して神を賛美している。
回勅は、以下のように、序章とそれに続く6つの章からなる。
序章「私の主よ、あなたはたたえられますように」
1章「私たちの家で起こっていること」
2章「創造の福音」
3章「環境危機の人間的原因」
4章「統合的エコロジー」
5章「いくつかの方向性と行動」
6章「環境的教育と霊性」
教皇はこの回勅で、環境問題に関する最新の科学的研究を踏まえ、気候変動や水問題、生物学的多様性の保護、環境的負債など、現在の環境危機のさまざまな様相を見つめている。(1章)
そして、聖書を通して、ユダヤ教およびキリスト教的伝統の視点から、自然に対する人類の責任、全ての創造物の間にある親密な関わり、皆の共通の財産としての環境について考えている。(2章)
さらに、現在の環境危機の原因を、哲学や人間科学との対話のうちに分析し、テクノロジーや人間中心主義の弊害、また人間の労働や遺伝子組み換えの問題にも言及している。(3章)
その上で、この世界における人類の位置と、それを取り巻く現実を包括した「統合的なエコロジー」を提案。環境・自然を、経済や政治、文化、日常生活という、人類が生きるさまざまな分野に密接に関わるものと認識し、環境問題と社会・人間問題を切り離すことのできないものとして提示している。(4章)
人類に何ができるか、また何をすべきか、という問いに対し、教皇は、社会や経済、政治のあらゆるレベルにおける誠実で透明性のある対話を提案。いかなるプロジェクトも、それが責任ある良心によって生かされていないならば、決して効果的にはなり得ないと指摘している。(5章)
「環境的回心」のために、教育と育成の重要性を強調。文化的危機の根源は深く、習慣を改めることは容易ではないが、そのために全ての教育環境を巻き込んだ歩みが重要になるとしている。その上で、違う生活スタイルの選択によって、政治や経済、社会に健全な影響を与えるとともに、小さな日常の態度、簡素な生活から、世界に対する責任と、弱い人々への配慮を持った「統合的なエコロジー」を目指すよう招いている。(6章)
そして教皇は、「創造主であり父である神」を信じる全ての人々と、キリスト教徒に向けた2つの祈りをもって、この回勅を締めくくっている。
この回勅を受けて、世界教会協議会(WCC)は18日、回勅を歓迎する意向を発表。「今こそ人間としての私たち共通の責任と、必要な変革をする用意がある人たちを教会として支えるべき在り方に焦点を当てる時だ」と、WCCのオラフ・フィクセ・トヴェイト総幹事は述べた。
トヴェイト総幹事はまた、「この回勅は、これらが私たちのキリスト教信仰の中心にある問題であること、そして私たちキリスト教徒が、共通の未来を気遣う全ての人々と共にある教会として、正義と平和の問題としてそれらに取り組むべきであること、を全ての人々に証明している」と付け加えた。
また、東方正教会のコンスタンディヌーポリ総主教バルソロメオス1世も、米タイム誌(電子版)の18日付の記事で、共通の関心と共通のビジョンを共有していることは真の恵みだとして、この回勅を積極的に評価した。
聖公会のアングリカン・コミュニオン環境ネットワーク議長であるタボ・マクゴバ大主教(南アフリカ・ケープタウン)も、信仰者は急速な気候変動によってもたらされている危機が持つ道徳的・霊的な要素に焦点を当てる必要があるとして、この回勅を歓迎した。アングリカン・コミュニオン・ニュース・サービス(ACNS)が18日に伝えた。
さらに、プロテスタントの福音派を代表するローザンヌ運動の一部である「ローザンヌ被造物保護・ネットワーク」(LCCN)も、気候変動に関する教皇の関心に賛同し、この回勅に期待と感謝を表していると発表した。
回勅は、ローマ教皇が全世界の司教や信者に宛てて出す公文書で、教皇が出す文書の中では最も重要な文書。教皇フランシスコによる回勅は、2013年6月に発表された「ルーメン・フィディ」(邦題:信仰の光)に続いて2つ目。