神奈川県大磯町の有志による、自然エネルギーの研究・普及活動に取り組む一般社団法人大磯エネシフトは、同町東町のカトリック大磯教会敷地内に太陽光パネルを設置し、「みんなの発電所」としての稼働を始めた。14・28kwの発電能力を持ち、年間予測発電量は約4世帯分に相当する1万5279kwh / 年。売電収入に換算すると52万8千円ほどを見込んでおり、その一部が、東京電力福島第一原発事故により被災した親子を同町に招待するための費用に当てられる。同町は、湘南に位置し、相模湾に面する自然豊かな土地。海水浴発祥の地という説もあり、明治・昭和期には要人の別荘地として知られていた。
大磯エネシフト理事長の岡部幸江さんは、福島県南相馬市出身。原発事故をきっかけに、原発が近くにあったにもかかわらず、安全神話の中にいた自身に気づかされたという。事故当時すでに福島を離れていた岡部さんは、出身者ではあるが避難者でない。そのような立場にいる「私みたいな人が動かなければ」という思いに突き動かされ、放射能や節電についての小さな勉強会に参加する中で、発電事業に直接携わることを決意した。
2013年に発足した同団体の会員は、現在105人。14年春に、町内のマンション屋上に発電所第一号として、太陽光パネルを設置した実績がある。本紙では昨年、教会での自然エネルギー利用の一例として、信徒会館の屋根に太陽光パネルを設置したカトリック世田谷教会を紹介したが(関連記事:自然エネルギー利用や省エネの動き 教会やキリスト教団体などでも広がり見せる)、岡部さんも世田谷教会の取り組みを知り、「同じようなことができれば」と実際に足を運んで視察にも行ったという。また、日本カトリック司教団が11年11月に発表した「いますぐ原発の廃止を」という公文書が大変力強く感じられたそうで、「原発に代わる自然エネルギーの開発・普及」というカトリック教会の願いを形にできたら、と考えていたという。
同団体発足時からの協力者に、カトリック大磯教会の信徒が複数いたこともあり、当初から大磯教会の敷地内に太陽光パネルを設置したいという構想はあった。だが、教会の土地はカトリック横浜司教区のもので、教会の外部団体による土地の無償利用の許可を得るためには、綿密な交渉が必要となった。
副理事長の石川旺さんは「教会の委員会に大変お世話になった」と話す。教会の委員会の協力によって進められた交渉は、同教区が同団体の趣旨を理解し、5年間のお試し期間ということで許可を得るに至った。副委員長の渡辺晃行さんは、大磯教会が12年から福島の子どもたちを保養のために受け入れており、福島原発問題との関係が深い教会であること、同団体の太陽光パネル設置に実績があること、が大きな強みだったようだと分析している。
大磯教会は、聖堂裏に庭があり、ちょうど南の海側に向けて斜面が広がっている。長年の間松の木が植えられていたが、虫に食われて枯れ木となり、手入れが難しいためにうっそうとしていた。今回太陽光パネル設置にあたり、枯れ木は伐採され、雑草も抜かれて地面が整備された。同教会のトーマス・テハン神父にも「きれいになった」と好評で、心配されていた聖堂内からの景観も損なわれていない。
1月25日には点灯式が開かれ、同町町長以下の町の関係者、設計・施工を請け負った町内の事業者、教会関係者など多くが集まり、太陽光発電による電燈のスイッチを押した。その直前には、神父による祝福式も行われ、パネルを一周して祈りがささげられた。
岡部さんは、「原発に反対する運動だけでは気分も暗くなりがち。思いは同じでも参加しづらく思っている人もいる。小さな市民発電で何ができるかと萎縮するのではなく、こうして行動に移すことで、機運を高め、全国の人たちとのつながりを築いていきたい」と話す。
「太陽パネルは、人と人をつなげていく手段のひとつ」と岡部さんは言う。事実、同町では市民がエネルギー運動をしていく上で核となる「大磯町省エネルギー及び再生可能エネルギー利用の推進に関する条例」が可決され、この条例を生かしていく仕組みを考案するための動きが始まっている。
また、再生エネルギー固定価格買取制度をはじめとする、市民発電をサポートする制度も整い始め、市民電力連絡会、全国ご当地エネルギー協会など全国的なネットワークが広がりつつある。地域に根ざす教会が、この流れの中でどのような役割を果たしていくべきか、また新しい一つのモデルが誕生したのではないだろうか。