福島第一原発事故に関する原発メーカーの責任を追及しようと、被告メーカー側3社(東芝・日立・GE)に損害賠償を求めて提訴していたキリスト教の牧師や神学者・信徒らの原告に対し、東京地方裁判所は13日、その訴えを却下し、請求を棄却した。
これを受けて原告は同日、東京・霞ヶ関の司法記者クラブで、記者団に対し、直ちに控訴する意向を表明するとともに、原発メーカーに対する世界的な不買・投資引き揚げ・制裁(Boycott, Divestment, and Sanction: BDS)運動を展開すると発表した。
この原告は「原発メーカー訴訟の会・本人訴訟団」(千葉県船橋市)。原告はこの訴訟で、核の廃絶を願い、①原発は憲法違反、原賠法(原子力損害の賠償に関する法律)は違憲立法、②原発は公序良俗に反する違法・無効行為、③原発は世界中の人々に精神的苦痛・損害を与えた、と強く主張していた。
原賠法第1章「総則」(目的)第1条には「この法律は、原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め、もって被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする」と書かれている。
また、原賠法第2章「原子力損害賠償責任」(無過失責任、責任の集中等)第4条には、「前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない」「原子炉の運転等により生じた原子力損害については、…(中略)...製造物責任法の規定は、適用しない」などと記されている。
原発メーカー訴訟の会の会長を務める渡辺信夫氏(日本キリスト教会東京告白教会前牧師)は、記者団に対し、「宗教改革をしたキリスト教がその教会の中で抵抗する権利があるとする抵抗権という概念が16世紀に成立した。今は信じる人も信じない人も人間として抵抗権を持っていると概念が広がっている」と説明した。
そして、『信仰にもとづく抵抗権』(いのちのことば社、2016年)など多くの著書があるカルヴァン派の神学者である渡辺氏は、「この原発訴訟にこの抵抗権理論が大いに活用されると考えている。私たちは今日の判決が不当であると判断し、これに対して反論する権利があるということを宣言したいと思う」と語った。
原発メーカー訴訟の会・本人訴訟団の事務局長である崔勝久(チェ・ソング)氏(日本同盟基督教団信徒)は、判決の内容について、「相当因果関係によって限定されることなく、事実的因果関係のある損害の全てが認められるべきであると主張するけれども、それは独自の見解であって、採用することはできないというのが、今日の判決の内容です。これに対して、われわれは強く抗議をしたいと思います」と記者団に語った。
「すなわち、相当因果関係というのは一体誰が決めたんだろうか。自分たちの基準というのは全部国が決めて、その範囲内のことでないと因果関係というのは認めないという主張を国がやっているわけですから、われわれが精神的損害だというのを訴えるときには、その基準そのものの存在を問題にしているわけですね」と崔勝久氏。「だから、われわれが言っていることは、世界的な事実、起こった事実そのものに関する事実的因果関係を求めているのに、裁判所がそれは独自の見解だというのは間違いで、実際は東京地裁においても、彼らは因果関係にもいろんな判断の仕方があるということを明確にしています。従って、相当因果関係でないといけないという主張そのものが一方的な主張です。自分たちの設けた基準によってその範囲内でないと認めないという主張そのものがおかしい。これを彼らが認めると、福島の事故およびいろんなことに対して切る(責任を負わない)理由になっている」
「基準そのものを自分たちで決めておいて、われわれが言っている精神的損害は認めないというのは、自分たちが設定した枠以外のことは認められないという主張ですから、この判決に関してわれわれは控訴します。そして、世界水準に基づいて、起こっている事実に基づいて因果関係を言うべきであって、自分たちの設定した基準に合っているか合っていないかということだけで判断するような因果関係を大前提にする、それ以外は認めないというのが今日の判決ですから、それは根本的におかしい」と、崔勝久氏は批判した。
「われわれは原発というのは憲法違反だ、そして原発メーカーだとか東電のビジネス契約というのは公序良俗に反するから無効だということを言っているのに、それに対する反論が全くない。ですから控訴をして、裁判所の見解、メーカーの責任を徹底的に追及したいと思います」と崔勝久は述べた。
「われわれは法廷外での国際的な連帯運動をやる。そのことによってメーカーの責任を追及するという、両方を考えている」と、崔勝久氏は付け加えた。
9人の「選定当事者」(※文末の注1)の1人で、原発メーカー訴訟の会・本人訴訟団の代表を務めている木村公一氏(日本バプテスト連盟福岡国際キリスト教会協力牧師)は、「私たちは人間が手に負えない、あるいは制御できない核エネルギーを使用することそのものを問題にしています。私たちは、実は今日、有楽町・新橋で、東芝製品のボイコット運動を開始しました。これは今日が初日で、これから全世界的なキャンペーンを私たちは展開していく予定です」と発表した。
「特に東芝の場合は64基の原発のセールスをさまざまな政府と今交渉の中にある。これは原発メーカーとしては先端を走っている。日本で原発建設が非常に難しい。であるならば、これを輸出してしまおう、輸出でもうけようという行き方について、全世界から日本人の良心の問題として問い掛けられている。日本人の良心、道徳心というのは一体どうなっているのか。つまり、他国の人々の犠牲の上にさらに金もうけをしようとする。これを私たちの良心は許さない。利益だけはごっそりと持っていき、リスクは私たちの財布に押し付けてくるということですね。こんな商売は資本主義の社会にあってはいけない。競争原理が成り立ってないわけですから」と、木村氏は批判した。
「私たちは東芝製品のボイコット運動、そして投資の引き揚げ運動を全世界的にやっていく。これは東芝を破産に追い込む運動ではございません。そうではなくて、東芝が平和産業に帰っていく(ようにする)運動なんだということをご理解いただきたいと思います」と、木村氏は運動の趣旨を説明した。
「原賠法という免罪符を今政府は発行しているわけですよね。500年前、カトリック教会が免罪符を発行していたわけですけど、今は教会ではなくて国家が免罪符を発行している。そしてどんな欠陥商品であったとしても、それが免責され、許される。そういう法律というものを国家が用意して、国家と企業が一体となってこの逸脱を推し進めている。世界にフクシマを輸出しようとしている。これは私たち日本人の良心として許せないことなんですね」と、野中宏樹牧師との共著書『原発はもう手放しましょう』(いのちのことば社、2014年)などがある木村氏は語った。
また、韓国から来日した民衆(ミンジュン)神学者の金容福(キム・ヨンボク)博士(アジア太平洋生命学研究院院長)は、記者団に対し、通訳を通じて、「世界のどこであろうと、核被害者の運命は1つだと思います。ですから全ての被爆者の問題は1つにまとまるはずです。ここに世界の全ての被爆者たちの問題についての連帯の必然性、必要性があるわけです」と語った。
「この被爆者の問題というのは、第2次世界大戦が生み出した最も悲劇的な、最も悪いことであります。しかし、今この東北アジアにおいては、核問題に関する各国の競争がし烈に行われており、その生産をするために貿易としてこれを考えているような状況になっています。今核兵器を造り出している国々、核をエネルギーとして生産している国々は、脱法的であり、超法規的であるといえます」と、金容福博士は述べた。
「今日の判決を見ると、法律を回避するものであり、責任を持った判決だとは思えません。今核エネルギーのパワーを用いて平和利用とかみんなの暮らしをよくするためと言っていることは、実はそうではなくて、1つの弁解にすぎません」と金容福博士は批判した。
「ですから国際的な連帯運動を2つの方法をもってこれから展開しようと思っています。まず1つ目は非暴力的・平和的な抵抗であります。BDSがその1つの方法です。それで8月4日から8日の間に、もう一度韓国において日本の皆様と集まって、一緒に連帯しながらこの運動を展開するための戦略を練ったりする予定であります。もう1つの目標ははっきりしております。それは、全ての生命体の生命を保障するものであります。今生命体というのは核の勢力によっていろいろ犠牲を受けてきましたけれども、生命体が犠牲になった状態から本当に治癒されて回復されて、お互いの活動を通して和解をするという、そういう過程を通して、私たちの生(せい)を享受することに向かって、私たちはやっていきたいと思います」と金容福博士は述べた。
「ですから私たちは絶望せずに、希望を持ってパッション(情熱)を持って、世界的にこの運動を展開していきたいと思います」と、金容福博士は結んだ。
この運動の呼び掛け団体は、韓国側は「韓国・核のない世のためのキリスト者連帯」(ANCN)、アジア平和市民ネット、日本側はNPO法人NNAA(No Nukes Asia Action)、原発メーカー訴訟の会・本人訴訟団がそれぞれ務めている。
崔勝久氏によると、原発メーカー訴訟の会・本人訴訟団は、8月4~8日の韓国訪問(20人)で韓国被曝者の記者会見に参加し、世界で初めて、米国政府の原爆投下の責任を問う提訴を韓国で行うという。「日本ではできませんから」と、崔勝久氏は述べた。
今回の判決で、東京地裁は、原賠法の責任集中制度の違憲性について、同制度が原告らの主張するノーニュークス権を侵害して違憲であるとは認められないと判断。また、同制度は被害回復のために合理的でないとはいえず、立法の裁量の範囲内であり、財産権を侵害するものではないとした。
同地裁は平等権について、この制度は合理的理由のない差別ではないとするとともに、裁判を受ける権利についても、法律を適用した結果、その法律が違憲無効でない限り、それ自体が、裁判を受ける権利を侵害するものとはいえないとした。
同裁判所は、被告らがこの制度による免責を主張することの権利濫用該当性について、原賠法により、被告らがその責任を負うことはなく、原告らの被告らに対する損害賠償請求権が行使できないことに帰着するため、被告らは何らかの権利を行使しているわけではないから、主張自体失当であるとした。
以上により、原告の請求は棄却すると同裁判所は述べた。
また、同裁判所は、東電は債務超過に陥る兆候がなく、東電は無資力の状態にないとして、原告適格(債権保全の必要性)が認められず、債権者代位権に係る訴えを却下した。
3月23日に行われた第4回口頭弁論で裁判長は、「今回で結審する」と宣言し、7月13日の判決を予告していた。
今回の判決に先立ち、木村氏や金博士、崔氏らは同日の昼、小雨が降る中、JR有楽町駅(東京都千代田区)前にある家電製品店「ビックカメラ有楽町店」やJR新橋駅(同港区)の付近で、「原発輸出反対!東芝製品をボイコットしよう!」と日本語と韓国語、英語で書かれた横断幕を広げて、原発を輸出しようとしている東芝や日立、三菱などの原発メーカーに対する示威行動を行った。ただ、その行動の演説を聞いたり配られたビラを受け取る人たちは少なく、通り過ぎていく人たちが多かった。
木村氏はこの示威行動について、それはビックカメラに対するものではなく、原発メーカー、それも特に東芝に対して、平和産業に変わってほしいと訴えることが目的だと説明していた。
原発メーカー訴訟の会・本人訴訟団は公式サイトで、「原告数十名と弁護団との間で、運動の在り方や裁判の進め方に関して意見が分かれ、弁護団が朴鐘碩、崔勝久の代理人を辞任したために、2人と思いを同じくする原告が弁護団を解任し、『原発メーカー訴訟の会・本人訴訟団』を結成しました」と説明。弁護団の裁判とは別の法廷での「分離裁判」を行ってきたという。
※注1:原発メーカー訴訟の会・本人訴訟団によると、原告は民事訴訟法第30条にある「選定当事者制度」を利用し、国内外9人の「選定当事者」を選定し、本人訴訟で裁判を闘っており、現在「選定者」は国内外で約40人に上っているという。同条には「共同の利益を有する多数の者で前条の規定に該当しないものは、その中から、全員のために原告または被告となるべき1人または数人を選定することができる」などと定められている。