旧日本海軍で戦争を経験し、戦後に日本キリスト教会の伝道者となって抵抗権についてずっと考えてきた著者の自らの証し。「この世の権力が『悪魔化』したときに、キリスト者はこれにどう対したらよいのか」「信仰の先達が正当な権利とした『抵抗権』をふり返り、今日の教会のありようを考える」と、本書の帯には記されている。
「私にとって、神を信じることは私が私であることの根拠である。だから、抵抗権は神を信じる私にとって、神から授けられた恵みの賜物、あるいは神から託されたタラントである。抵抗権は信仰によってこそ考えられるものであった」と、著者は言う。
1923年生まれの著者は最初にIとして、「『抵抗権』への目覚め」として、自身が70年以上前に旧日本海軍に入れられて、戦争の無謀と無意味さに気付いて抵抗しなかったことを悔やんだことから、当時の海軍での体験を振り返っている。
また、フランス出身の宗教改革者、ジャン・カルヴァンの研究でも知られる著者は、IIで「『抵抗権』を学ぶ―歴史における『抵抗権』」と題し、カルヴァンの『キリスト教綱要』にある抵抗権論や、ルター派のアウグスブルク信仰告白における抵抗権などに触れつつ、抵抗権の行使が行われた歴史の事例として、フランス改革派やドイツのナチ政権への教会の抵抗、韓国における長老教会の神社参拝拒否について述べている。
そして、IIIの「国家と教会―『抵抗権』発動の歴史」で、著者は国家と対峙する教会、教会そのものについての問い、抵抗権行使の実際について述べた上で、宗教改革における教会や都市そして都市国家、さらに憲法を立てる国家と教会の形成について論じている。
さらにIVとして、著者は「第二の敗戦と『抵抗権』―権力悪との闘い」について、3・11以降の「第二の敗戦」とその不気味さ、不安の増殖、権力悪との闘い、罪としての原発、立憲政治の破壊といった今日の日本におけるテーマについて論じ、「抵抗の正念場が見えてきた」「ここからが信仰の闘いだ」と述べている。
「信仰者が神を根拠にして抵抗権を確信し、またそれだけの超越的な自己規制を課することによって、抵抗権が恣(ほしいまま)の自己主張にならないようにすることの意味を考えてもらいたい」という著者にとって、本書は「最後の著書になると見られるであろうし、自分でもそのように思う」という。今の世代のキリスト者は、そして教会は、これをどう受け止めるのだろうか。
渡辺信夫著『信仰にもとづく抵抗権』いのちのことば社、2016年2月、112ページ、本体1300円(税別)