本書は、NHK Eテレ(教育)の番組「100分de名著」で2014年5月に放送された「旧約聖書」の番組テキストをもとに大幅に加筆し再構成したもの。
2014年当時のそのテキストは、「【はじめに】聖書を全体で理解しよう、第1回 こうして“神”が誕生した、第2回 人間は罪の状態にある、第3回 聖書の成立、第4回 沈黙は破られるのか」という内容で構成されていた。
しかし今回の新しい版では、「回」が「講」となり、「第3回 聖書の成立」がなくなっている。第4回は第6講へと移り、第2講「創造神話」の矛盾、第4講 なぜ神は「沈黙」したのか、第5講 神の前での自己正当化、が新たに加えられている。
116ページだった前回のテキストが、この新しいムックでは192ページに増えている。また、アマゾンでは本書で新たに電子書籍(Kindle版)も出ている。
著者は千葉大学文学部教授で、ストラスブール大学プロテスタント神学専攻(博士課程)修了後、東京大学大学院総合文化研究科でも超域文化科学を専攻したという。本書によれば、加藤氏の専門は聖書学、神学、比較文明論で、同大学のウェブサイトにある教員要覧にも、加藤氏の研究内容が聖書研究と比較文明論であると記されている。
『新約聖書はなぜギリシア語で書かれたか』(大修館書店、1999年)など新約聖書に関する著書が多く、2010年にはNHKラジオ第2の文化番組「カルチャーラジオ 歴史再発見」で、「『新約聖書』とその時代」の講師を務めた加藤氏だが、それだけでなく、『一神教の誕生 ユダヤ教からキリスト教へ』(講談社現代新書、2002年)、『旧約聖書の誕生』(ちくま学芸文庫、2011年)という本も著している。
本書を用いた新たな番組の放送は予定されていない。しかし本書は、前回のテキストと比較しても、また新たな読書としても読める。表紙に「何もしてくれない神は、なぜ『神』であり続けるのか」と書かれており、信者の中にはこれに疑問や不満を持つ方もおられるかもしれない。ただ、本書は信仰書というよりも教養・文化シリーズの本なので、あくまでもそういう本として受け止める必要があるだろう。
本書の中で、著者は聖書を全体で理解するようにと強調している。「全体」の内容を問いながら、「一神教」の根源を探る上で、本書は興味深い本かもしれない。
なお、2014年5月当時の本紙記者が、「NHK『100分 de 名著』が『旧約聖書』を放送 『こうして“神”が誕生した』の衝撃」という記事を書いている。
加藤隆著『別冊NHK100分de名著 集中講義 旧約聖書「一神教」の根源を見る』NHK出版、2016年2月(既刊)、定価:本体900円+税。