カンタベリー大主教ジャスティン・ウエルビーは29日夜、悪意のある人たちが、英国の欧州連合(EU)からの離脱を口実にして、憎悪を助長し、分裂を引き起こしていると語った。
カンタベリー大主教は同日夜、イスラム教の断食月「ラマダン」中に行われる日没後の食事会である「イフタール」をロンドンのランベス宮殿で主催し、これまでにない緊迫した情勢の中で、異宗派間で調和を保つよう求めた。
イフタールには、サディク・カーン・ロンドン市長やエフライム・ミルビス主任ラビらが出席したほか、キリスト教や他宗派から多くの若者が集まった。
「不安と分裂の時にあって、異なる宗教的背景を持つ指導者や若者と共に、(ロンドンという)世界都市を祝福できることは喜びであり特権です」と、大主教はフェイスブックの投稿で述べた。
「この困難な時節にあって、重要な役割を担う若い指導者の方々をお迎えできることは、素晴らしい恵みです。今晩、皆さんがここに集まってくださったことを心から感謝しています」
今回のラマダンは、過去30年間で最も長かったと、大主教は語った。イフタールに参加したイスラム教徒に向けて大主教は、「皆さんがラマダンをこのように忠実に守っておられることは、信仰を真摯(しんし)に受け止めることの模範になっています」と述べた。幾日にもわたり、この信仰のテストを通過するために多くの人々と共に長い1日を過ごしてきたと述べ、「主が皆さんを今後も力付けてくださいますように」と語った。
また、大主教は、イスラム教信仰を持つロンドン市長の参加を歓迎した。ロンドンは市長夫妻が育った「偉大な町」だとし、市長のために祈ってきたと述べた。
「皆さんご存じの通り、私たちは熾烈な(EU残留・離脱をめぐる)投票キャンペーンを通過しました。この国は深く分裂しています。若者と年配者の投票結果は、人口統計学的に分かれましたし、宗教的に分かれました。特にロンドンが残留に票を投じたのは明らかですが、他の地域は離脱に投票しました」
「この国は民主主義国家ですから、私たちは結果を受け入れます。民主主義というのは、こういうものです。投票が行われ、ある人は勝利し、ある人は敗北します。自分が敗者の側にいるとしても、それもまた民主主義体制の特権なのです」
「民主主義の特権とは、投票ができることです。選挙戦を精力的に行えることです。強固で堅実な討論ができることです。しかし、憎悪を表すことは、民主主義の特権ではありません。分裂状態につけ込み、偏見や憎しみに満ちた攻撃をするのは民主主義ではありません。ここ数日、そういった動きが急増するのを私たちは見ています」
大主教は、EUからの離脱運動そのものを責めているのではないとしつつも、「悪意のある人々は現状を口実にして憎悪を表していますが、それは見せかけに過ぎません」と語った。
大主教は、ロンドン西部のハマースミスにあるポーランドセンターの落書き事件を特に批判した。「あれは国家を代表する施設に対する無法な攻撃です。ポーランドは英国の友人であり、長年にわたる同盟国です。ポーランドは英国にとってとても大切な国です」
大主教は、憎悪や分裂に対抗して団結するよう語り、「外向きで、気前よくもてなす精神によって」英国の再建に取り組むよう奨励した。大主教は、「力強く善を行い、徹底して悪に立ち向かう」よう参加者に求めた。
キリスト者は、全ての人が神とキリストから愛されており、全ての人に尊厳があると信じているとし、「私たちは立ち上がって声を上げ、特に弱者ために共に闘おうではありませんか」と語った。