立教大学チャプレン室が主催するRUM(Rikkyo University Mission)チャペル講演会「声を聞き、思い続け、今、共に生きる―平和のために」が22日、立教学院諸聖徒礼拝堂(池袋チャペル:東京都豊島区)で開催された。講師に同大社会学部および21世紀社会デザイン研究科教授の長(おさ)有紀枝氏とNHK解説員の道傳愛子氏を迎え、日本に生きる者として何ができるのか、何が世界を変えるのか、学内外から集まった約80人が共に考えた。
長教授は、1991年から2003年まで「難民を助ける会」で緊急人道支援、地雷対策、障がい者支援、地雷禁止条約策定・普遍化交渉などに携わり、09年から同大大学院21世紀社会デザイン研究科で教鞭をとると同時に、認定NPO法人「難民を助ける会」理事長も務める。冒頭、世界を見たとき、いつもと変わらない日常がいかに大変なことであるか、世界を知らないことの危うさを述べた後、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争について話した。長教授は、「NGOをはじめ国連や国際機関などが紛争地で活動する目的が、人々の分断を乗り越える手伝いをすることでありながら、その分断を意識するあまり、実際は分断を乗り越えられない状況を作ってしまっているのではないか」と問題提起し、「セルビア人・クロアチア人・ボシュニャク人の3民族の平和な時を知らず、紛争後の彼らの分断を所与にして、境目を際立たせてしまったことが、『デイトン和平合意』が戦争を終わらせることには成功したが、国作りには失敗したと言われる一つの原因ではないか」と語った。
さらに、誰と誰を和解させるのかについて、解決しないまま和平合意が行われたことを指摘し、国際社会が平和をつくるために3民族のみを主体とし、異民族間の結婚で生まれたような、民族の違いを意識しない人々のアイデンティ―が奪われてしまったのではないかと話す。その一方で、今なお続く分断を乗り越える可能性があるのが、障がいのある人たちであることを伝えた。紛争前、コソボ自治州では、アルバニア人とセルビア人が共通の盲学校・ろうあ学校で学んでいたという。また、現地の人たちが、時には戦争で失った自分の手足のことさえもユーモアに変えてしまうことも明かした。長教授は、地雷で足を失ったセルビア人の男性が、「笑いは誰も持っていかない」と言っていたことを話し、「笑いの精神」の重要性を強調した。
道傳愛子氏は、NHK入局後、報道番組などのアナウンサーを務め、米国コロンビア大学に留学し、帰国後は、バンコク特派員などを経て、現在は東南アジアや開発途上国の解説などを担当する。道傳氏は、2014年にノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんと昨年対談しており、講演ではそのことを中心に話した。道傳氏がマララさんと対談することになったきっかけは、マララさんの本を翻訳したことだ。長教授も絵本『マララとイクバル』に触れ、そこに出てくる最初の詩、「危険から守り給えと祈るのではなく、立ち向かう勇気を」との言葉に感動したことを話した。道傳氏はマララさんの本を翻訳できたこと、対談ができたことについて、「途上国の課題は決して華々しいことではないが、ずっと続けてきたことがよかったのかなと思った」と述べた。
「私たちは感謝すべきことに、学校で新しい知識を得たり、考えたりする機会が与えられている。このことをぜひ行動を起こすことにつなげてほしい」と、教育の重要性を訴えるマララさんの話を通して語った。「誰にとっても教育は権利であって、シリア難民、難民だからといって教育を奪われてはいけない」と述べ、さらにマララさんが「国連のミレニアム開発目標はそもそも設定が低すぎた。初等教育だけでは十分ではないのです。世界の指導者の誰が、自分の子どもにたった6年の初等教育で十分だなどと考えるでしょうか」と言ったことを伝え、初等教育だけでなく中等教育を受けることの大切さを強調した。
道傳氏は、カンボジアのスラム街で絵本を届ける活動もしており、本を持っていくとものすごい勢いで駆け寄ってくる子どもたちを見ると「これはずっと続けなければいけないと覚悟した」という。また、「マララさんのようにあれだけの思いをして、それでも立ち上がる勇気というのは、私たち皆が持てるわけではない。でもそうであっても、どうつながっていくかを考えることは必要」だと言い、「想像力を持つこと、それも知識に裏打ちされた創造力を。今ここに生かされているという期待と共に想像力を養って活動していく」と、想像力を持つことの重要性を強調した。そして「世界が抱えている課題を一気に解決することはできないが、自分の与えられた役割の中で加わっていけたらと思っている」と話した。
2人の講演の後、五十嵐正司チャプレン長と、宮﨑光チャプレンが司会で加わり、ディスカッションが行われた。その中で五十嵐氏は、「ニュースだけでなく、実際に行ってみることが大事で、その中で自分がすべきことが見えてくるのではないか。普通に生活している自分にとって、貧困にあえぐ現地の人たちとのギャップに躊躇(ちゅうちょ)するだろうが、まずは行って、自分の目で感じることが『想像力を養う』上でも必要だと強く感じた」と語った。その後、参加者との質疑応答が行われ、五十嵐氏の祈りによって終了した。
チャプレン室は2015年度、「敗戦70年」を覚え、平和と正義を求める祈りを通して学び、考え、できることをしようと、学生・教職員に呼び掛けてきた。これまでも、実際に戦争を体験した同大卒業生の証言を聞いたり、チャペル活動に関わる学生たちと平和を語り合ってきた。この日参加した同大4年生の男子学生は「自分にしかできないことをしていきたい。優劣はない、誰とでもつながることができると思った」と感想を語った。