18日、牛込聖公会聖バルナバ教会(東京都新宿区)で日本エキュメニカル協会(JEA:松山與志雄理事長)主催の秋の公開研究会が開催された。研究会では来年10月に開催される韓国釜山での世界教会協議会(WCC)第10回総会について、立教大学副総長でWCC中央委員でもある西原廉太氏より説明がなされた。
来年度釜山で行われるWCC世界総会は韓国釜山にて来年10月30日から11月8日の日程で開催される。それに先駆け8月27日から9月5日にかけて、WCC中央委員会がギリシャクレタ島で開催された。中央委員会ではオラフ・トゥヴェイト総幹事がWCC第10回総会主題である「いのちの神よ、わたしたちを正義と平和に導いてください」と題して、中央委員会における総幹事報告を行った。
中央委員会ではギリシャ経済危機に関してトゥヴェイト総幹事が「貧困、富とエコロジーの関連性についての研究をさらに深めることにより、経済とエコロジーを切り結ぶ中で、教会独自のスタンスも明らかになってくるであろう」との指摘がなされたという。他にも昨年5月にジャマイカ・キングストンで開催された国際エキュメニカル平和会議(IEPC)が持つ意義についても振り返られた。この会議は東日本大震災直後の混乱した状況ではあったが、日本からカトリックシスターの清水靖子氏が原発、核をめぐるプレゼンテーションを行い、世界のキリスト者に大きな反響を与えるものとなり、協議会のハイライトとなっていたことが確認された。
しかし西原氏は今夏開かれたWCC中央委員会では、「こちらから口にでもしない限り、東日本大震災についてはほとんど話題にならなかった。私達にとっては今もって、重要な課題であるが、世界の人々の関心からは遠くなっているというのが残念ながら現実である。シリアなどの緊迫した状況が世界の課題となることは当然であるが、私達は、被災地でのこと、福島のこと、そして脱原発というテーマを、日本の教会として、より積極的に伝えて行かなければならないことを実感した」と伝えた。
WCCは1948年に設立されて以来64年の歴史を持つ世界最大の教会組織となっている。戦前から存在していた「生活と実践」、「信仰と職制」のエキュメニカル運動と「教会教育」の流れの3つが合流してWCCの設立に至った。WCCは7年に一度総会を開催しており、第一回の総会は1948年にアムステルダムで行われ、その後世界各地で総会が行われてきた。WCC中央委員会は18カ月に一度行われ、重要な案件やWCCの方向性を審議している。中央委員会委員は総会において選出され、選出された委員が次の総会までの7年間の期間中央委員の仕事をすることになっているという。
WCCは教会協議会であり、正式に加盟できる単位は教会単位となっている。そのため日本キリスト教協議会(NCC)は教会ではなくキリスト教組織であるため、準加盟となっている。現在WCCの正式加盟教会は345教会となっている。日本からは日本基督教団、聖公会、在日大韓基督教会およびハリストス正教会が正式加盟しており、来年度の釜山総会へは日本基督教団から岡本知之氏、秋山徹氏、聖公会から西原氏が総会代議員として参加、NCCから総幹事の網中彰子氏が派遣代表者として参加することが決まっているという。
WCC釜山総会での正代議員数は701名、中央委員会で決定する追加代議員が124名で合計824名が参加する他、WCCとつながるエキュメニカル・パートナーにも招待状が送付され、「派遣代表者」の資格で総会への参加が期待されている。エキュメニカル・パートナーにはキリスト教世界共同体(Christian World Communions:CWCs)地域エキュメニカル団体(REOs)、各国のキリスト教協議会、教会協議会(NCCs)、国際エキュメニカル団体(IEOs)などのカテゴリーがあるという。
その他「オブザーバー」としてローマ・カトリック教会、韓国の諸教会、ペンテコステ諸教会、WCC加盟に関心を有している諸教会などに特別に招待状が出されている。その他にも、総会で特別な貢献などが期待される「アドバイザー」、他宗教代表らが招かれるという。
トゥヴェイト総幹事は、今回のWCC総会について「WCC加盟教会のための総会であるだけではなく、世界のエキュメニカル運動にも大きな意義とインパクトを与えるものになろう」t述べているという。今回の総会ではWCC加盟教会以外からも、エキュメニカル関係諸団体やWCCに加盟していない諸教会、さらには他宗教の代表らが公式に招かれ、エキュメニカル運動の将来についてそれぞれの見解が述べられることになるという。トゥヴェイト総幹事は「ひとつに結び合わされることが神の賜物であり、今日の世界における正義と平和の実現のために、共に働くことの意味を互いに確認する機会となる」ことを期待しているという。
WCC第10回総会のテーマは「いのちの神よ、わたしたちを正義と平和に導いてください」であり、アジアのコンテキストの多様性とあらゆるいのちへの配慮と正義を求めることの緊急性が意識されているという。さらに1.信仰の中で共に生きること:一致都宣教 2.希望の中で共に生きること:世界の正義、平和、和解のために、3.愛の中で共に生きること:共通の未来のために、という3つの副題が付けられているという。
主題をイメージしたロゴマークは、イザヤ書42章1~4節を基にしており、「神が選んだ者たちが、この地上のすべてに正義を据えるその時までは、決して傷つき果てることがないように願う者である」という。
今回のWCC総会は、東北アジアで初めて開催されるため、総会のプログラム内容にもアジアの諸課題や文化、思想が大きく取り入れられているという。とりわけ開催地である朝鮮半島の平和と統一の問題が、世界のエキュメニカル運動にとっても重要な課題であることが確認されることになるという。総会全体では1.コイノニア(キリストにおける一つの信仰と絆)、2.マルトゥリア(世界における証し)、3.ディアコニア(正義と平和)、4.エキュメニカル・フォーメーション(リーダーシップ形成)、5.宗教間の協働という5つの領域のもとに各プログラムが構成されるという。
総会プログラムは毎朝祈りと聖書の分かち合いによって始められ、共に祈り、共に御言葉を聴くことがWCC総会にとってきわめて本質的で不可欠なものであることが強調されるという。8つの全体会と約20の「エキュメニカル対話」の時間が設定され、世界の教会が直面する諸課題について具体的に議論し、方向性を確認していく作業が重ねられるという。
またこれら以外にも、今回の釜山総会のユニークなプログラムに「マダン(韓国語で「広場」という意味)」という名称の、総会期間中におけるワークショップや展示の企画提供持呼びかけられている。「マダン」は、人々が出会い、互いに励まされる場であるが、総会における「マダン」では、さまざまなワークショップ、展示、イベント、パフォーマンスなどのブースが作られ、多様で豊かな交わりが実現する予定であるという。なお「マダン」はWCC加盟教会ではなくとも参加可能であり、見物だけならば誰でも参加することができるという。
WCC総会の重要な作業として、新しい中央委員会と新議長団を選出することがあるという。次期WCC中央委員会候補は、あくまでも釜山総会に派遣された正総会代議員の中から選出されるという。また、WCC総会では青年たちによるスチュワードを募集している。青年たちにとっても世界の教会、世界のエキュメニカル運動を肌身で経験するまたとない機会でもあり、世界のエキュメニカル青年、聖公会の青年たちとの出会いの場ともなることが期待されているという。
また総会前の来年10月28日、29日に会場となる釜山BEXCOで1.女性たちのプレ総会―教会と社会における女性と男性の交わり60周年記念、2.プレ総会青年イベント、3.プレ総会ECAN(エキュメニカル障害者問題ネットワーク)会議、4.先住民プレ総会会議が行われる予定であるという。総会は英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語および韓国語が公式言語として同時通訳、翻訳が行われる予定であり、総会の一部はオンラインで中継される予定であるという。
なお、中央委員会では次期総会期以降のWCC運営に関して、総会間間隔をこれまでの7年から8年に、また中央委員会開催間隔を現在の15か月から2年に変更するという案が協議され、最終的には次回総会で確認される方向となったという。なお、トゥヴェイト総幹事は一度も来日しておらず、今回の中央委員会ではトゥヴェイト総幹事が広島や被災地の訪問を希望しており、来日の可能性があることが確認できたという。トゥヴェイト総幹事はNCC、各教派代表との懇談も希望しており、西原氏は「総幹事を招待することについてNCCを中心になるべく早い時期に協議する必要があると考える。WCC総会前のプレ・プログラムとしても位置付け可能であり、日本のエキュメニカル運動の再起動の上でも大きな効果があるのではないか」と述べた。