バチカン国際音楽祭の一環として10月28日、先々代の教皇ヨハネ・パウロ2世の死去10年を記念するミサがローマのサン・ピエトロ大聖堂で行われ、女性指揮者の西本智実さん(45)率いる「イルミナートフィルハーモニーオーケストラ」と「イルミナート合唱団」が、長崎県平戸市生月島(いきつきしま)の隠れキリシタンの祈り歌「オラショ」の原曲であるグレゴリオ聖歌を披露した。毎日新聞などが伝えた。
ミサで披露されたグレゴリオ聖歌は「オラショ」の原曲。「オラショ」とは、約450年前から同島の信徒によって口伝で伝えられてきた祈り歌。1587年に豊臣秀吉によって伴天連(バテレン)追放令が出されて以来、隠れキリシタンとなった信徒たちは、フランシスコ・ザビエルらイエズス会がミサで使うために持ってきた何曲かのグレゴリオ聖歌を基にして口伝で伝えてきた。
御詠歌(ごえいか)とも民謡ともいえる、不思議な節回しで唱える「オラショ」は3曲しか残っておらず、同島の中でそれらを歌えるのは5、6人しかいないという。「オラショ」の研究で知られる立教大学名誉教授で西洋音楽史専門の皆川達夫氏によると、「オラショを習うのは、復活祭に先立つ四旬節に限られ、その期間に覚えきれない場合には次の年まで待たなくてはならず、紙に書き取ってはならなかった。また、昔は夜中に外に見張りを立てて教える者と教わる者とが布団をかぶって習った」という。
西本さんは曾祖母が同島の出身で、そのため「オラショ」を幼いころから耳にしていた。また、祖先が「オラショ」口伝の一族だったこともあり、2013年に初めてバチカン国際音楽祭に招聘され、バチカン側から「ミサで使う曲は何かあるか」と聞かれた時に、この「オラショ」を提案した。そして、バチカンが「オラショ」を調べたところグレゴリオ聖歌であることが判明し、復元演奏へとつながった。その演奏は、驚きをもって迎えられ、「東洋の奇跡」としてバチカンから称賛された。昨年10月に西本さんは、活動の功績が認められ日本人で初めてバチカン国際音楽祭主催財団より名誉賞を受賞している。
平戸市の名誉大使でもある西村さんは8月、ローマ教皇代理の枢機卿より、原爆投下70年に際して広島市長と長崎市長宛ての親書を託され、それぞれの市長に手渡した。今回のミサでも、「無念の死を遂げた多くの方々、今も苦しみの中にいる方々のために、神に祈りをささげましょう」と述べた(西日本新聞)。なお、10月30日にもローマ南部にあるサン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂で、原爆被害者を追悼してヴェルディの「レクイエム」を演奏した。