カトリックの総本山、バチカンにあるバチカン美術館内部を世界で初めて4K/3Dで撮影した、体験型美術館映画『ヴァチカン美術館4K/3D 天国への入口』が、28日にいよいよ日本でも公開される。イタリア公開初日には2万7千人を動員、興行成績1位の快挙を遂げた話題の映画だ。
公開に先立って18日、試写会公開記念トークセッションがシネスイッチ銀座(東京都中央区)で開催された。ゲストに、イルミナートフィル芸術監督兼首席指揮者の西本智実氏、東海大学ヨーロッパ文明学科講師で漫画『チューザレ 破壊の創造者』監修者の原基晶氏を迎えた。両氏は、司会のKADOKAWAウォーカー情報局長兼関西ウォーカー統括編集長の玉置泰紀氏と共に登壇し、この映画の持つ魅力について語り合った。
西本氏は、昨年10月にバチカン国際音楽財団より「名誉賞」を受賞し、今年10月にもバチカン国際音楽祭に3年連続で招聘(しょうへい)されることが決まっている。サンピエトロ大聖堂でアジア人として初めて指揮をした西本氏は、バチカンに何度も足を運んでおり、この日もちょうど数日前にバチカンから戻ったばかりだった。「彫刻であれば肉眼でも立体的に見えるのは当たり前だが、3D映画で絵画を表現すると、見る焦点が変わる。画家たちが頭の中で描いていたものが見えるようだった。実際に見るのとは、印象が異なって見えるのが面白かった」と、この映画の大きな特徴である4K/3Dについて話した。
原氏も、「この映画はミケランジェロがメインに描かれているが、彼は立体の人だった。絵画も描いたが、彼の頭の中では全てが立体だったはず。見たかったものを見れてびっくりした」と驚きのコメント。
玉置氏は、「4Kは、ハイビジョンの4倍のきめ細かさなので、画面に映る情報量がものすごく多く、細かいところまで見えてしまう。逆に人間の目は、遠くがぼやけて見えることで遠近感を把握しているから、対照的な特徴を持った4Kと3Dが組み合わさったらどうなってしまうのかと考えていたが、答えがこれだった。強烈なインパクトがある映画だ」と評した。
原氏は、ダンテの『神曲』の最新翻訳を昨年完成させたダンテ研究者でもある。この映画にも登場するミケランジェロの「最後の審判」は、『神曲 地獄篇』からインスピレーションを受けたといわれているが、まさに翻訳中はこの絵のイメージが頭に浮かんでいたという。ルネサンス期の文化・歴史に造詣が深い原氏だが、「実はバチカンが苦手だった」と告白。それは、人類の初めから終わりまでの時間がバチカンには全部入っているからだそうで、研究を始めたころにはめまいがする思いだったという。この映画も、「人類の創生から最後の審判までを描きたかったのでは」と話し、作品中で何度も映し出される「塵(ちり)、一人の人間」について、「アダムは塵からつくられた。人間は全員アダムの子孫だから、同じ人だといえる。そのアダムがどうやって神に近づいていくかを表しているのではないか」と考えを膨らませた。
「美術館という題名がつけられた不思議な映画だが、美術館紹介映画ではない。人間ドラマだ」と玉置氏もそれに賛同する。美術作品を見せられているにもかかわらず、カトリック、バチカンが内包する歴史、政治、文学、音楽、信仰など、さまざまな要素が見え隠れするからだ。
日本からは遠く離れたバチカン。だが、バチカンを訪れる年間約500万人のうち、日本人は約10万人だという。この日会場に集まった人の中にも、実際に行ったことがあるという人は数多くいた。
また、西本氏が名誉賞を受賞したきっかけである、隠れキリシタンの祈り歌「生月(いきつき)島のオラショ」を見ても、日本とバチカンは全く無関係でないことが分かる。バチカンの歴史よりも古いラテン語のグレゴリウス聖歌3曲が、口伝えだけで450年以上伝えられ、そのうちの60%が現在でもラテン語と識別できるという。この「東洋の奇跡」を三氏はあらためて評価し、西本氏は「ミサにもぜひ参加してほしい」と話した。ミサの音楽や、立ち上る香炉の煙の中では、絵や彫刻がよみがえるような体験、現在にいるはずの自分が、遠い過去にも生きていたような時空を超えた体験をするといい、「画家が絵の中に描いた神を感じる瞬間がある」と熱を込めて話した。
「一度目は圧倒されてしまって、細かいところまで全てを把握するには一度では足りないかもしれない。この映画を観ると実際にバチカンに行きたくなる。行ったことのある人にとっても、これからという人にも、新しい発見がある。ぜひ、映画館に足を運んでほしい」と、三氏は口をそろえて太鼓判を押した。
映画『ヴァチカン美術館4K/3D 天国への入口』は、シネスイッチ銀座で2月28日から3D公開。