長崎県平戸市の生月(いきつき)町博物館「島の館」で24日、隠れキリシタンの祈り歌「オラショ」が披露された。長崎新聞が伝えた。
オラショは、ラテン語で祈りを意味する「oratio」が語源とされ、同島にキリスト教が伝来した約450年前から、信者の口伝で伝えられてきた祈りの歌。通常、教会では宣教師によって祈りの言葉や解釈は、言葉の時代変化と共に少しずつ変わっていくというが、禁制により一人も宣教師がいなくなった生月島では、言葉を全く変えることなくそのまま口伝えで伝えられ、保存されてきたという。
生月島は、フランシスコ・ザビエルらのイエズス会が布教を始め、いち早く民衆にキリスト教が浸透した地域。しかし、1587年に豊臣秀吉が伴天連追放令を出して以来明治まで続く禁教時代、人々は「隠れた本当の信仰」と「仏教」の2つの儀礼を一通り行うことで、幕府からの迫害から逃れたとも伝えられている。
聖歌は日本へ伝わった最初の西洋音楽と言われている。その中の唄オラショは、先月バチカンのサンピエトロ大聖堂で披露されたグレゴリオ聖歌がルーツだといわれている。しかし、この歌自体は欧州ではすでに歌われなくなっているという。
この歌を復元し、サンピエトロ大聖堂での演奏の指揮を執ったのは、イルミナート・フィルハーモニー・オーケストラの西本智実さん。西本さんの曾祖母はこの生月島の出身だという。西本さんは、この活動の功績が認められバチカン国際音楽財団より名誉賞を受賞。「オラショ」はバチカンから正式な聖歌として認められた。
長崎新聞によると、この日は壱部地区の信者5人が、30ほどの祈りを約30分かけて唱える「一通り」を披露した。この中には「唄オラショ」も含まれ、観客約60人が聞き入った。
信者の川崎雅市さん(64)は同紙の取材に対し、「信者かつ男性という条件に加え、人口減もあり後継者は厳しい状況にある。どうにかして伝統を守っていきたい」と語った。
隠れキリシタンの音楽は21世紀に入ってからはあまり詳しく研究されておらず、近年の唄オラショに関する情報を得ることが困難な現状と言われているが、同紙には「長崎市外海地区のかくれキリシタンの祈りと比べ、生月は男性が声に出して行うのが特徴」と話す、生月町博物館の学芸員である中園成生氏の言葉が紹介されている。