15世半ばに、当時のローマ教皇ニコラウス5世によって設立されたバチカン図書館。そこには、古いものでは2500年以上の歴史を経た膨大な蔵書や文書、美術的価値の高い装飾写本などが厳重に保管されている。
バチカン図書館のインフォメーション・テクノロジーセンター最高情報責任者(CIO)であるルチアーノ・アメンティ氏が先月下旬に来日し、NTTデータのイノベーション・カンファレンス2015で基調講演を行った。講演でアメンティ氏は、バチカン図書館とNTTデータが協力して行っているデジタルアーカイブ・プロジェクトを紹介したと、IT総合情報ポータル「ITmedia」などが伝えている。
これまでバチカン図書館では、大がかりなデジタル化は行ってこなかった。その理由についてアメンティ氏は、「テクノロジーが変化することで、デバイスが使えなくなる、フォーマットが変わる、またはデータが消えてしまうなどのリスクがあります。この影響は非常に大きいので、テクノロジーの活用には消極的でした」と説明する。
ローマ教皇庁が管轄するバチカン図書館は、世界最古の図書館の一つとされている。歴史的に重要かつ貴重な資料も含め、その蔵書量は110万冊を超えるという。そのうちの約8万2000冊は手書きの文献で、最古のものは2世紀ごろに書かれたものとみられている。
さらに手書きの写本は、歴史的価値以外にも、当時の歴史、法律、哲学、科学および神学などの研究においても重要で、また美術的な価値も認められおり、温度や湿度の管理が難しい。研究者たちが展示室で文献を閲覧したいと思っても、これまではこれらの理由により、さまざまな困難があった。そのためこれまでは保存に注力してきたが、8年にわたる棚卸し調査の結果、バチカン図書館にある全ての文献の2割弱しか内容を把握できていないことが分かった。
アメンティ氏は、「歴史的書物はバチカン図書館だけのものではなく、全人類のものなのです。誰もがこれらの書物をひもとくチャンスを得ることができなければなりません。しかしこれまでのやり方では、バチカン図書館の情報を全世界の人たちに閲覧してもらうことはできません。そこでわれわれの理念を少し変えることが必要でした」と説明する。
NTTデータは、昨年3月にバチカン図書館とデジタルアーカイブ事業について初期契約を結んでおり、デジタル画像化された貴重な手書き文献を、長期保存・公開するため、システムの構築を行ってきた。システムの構築は、同社のデジタルアーカイブ・ソリューション「AMLAD(アムラッド)」をベースに行われている。このプロジェクトが完了すれば、パソコン、スマートフォンなどから自由に閲覧できるようになるという。
今回のプロジェクトは保存のみならず、閲覧・活用も視野に入れているため、スキャニングが肝となる。完成してから長い時を経た文献は劣化が著しく、次世代が閲覧可能なデジタルアーカイブを作成するのためには、オリジナルの正確なスキャンが必要不可欠だ。「テクノロジーやデバイスが変わっても、黄色は黄色であり、青は青であり、赤は赤なのです。どんなデバイスでもオリジナルの色を再現しなければなりません」とアメンティ氏が言うように、色調を再現しつつ、オリジナルの保存も両立させることが重要となる。この困難かつ歴史的な大偉業に、日本の技術が信頼されての抜擢となった。
このプロジェクトでは、2018年までに約3000冊の手書き文献が電子化される予定で、約23億円が投じられる見通し。賛同・支援のための特設ページも設けられている。
■ バチカン図書館インタビュー動画