ハイドンやモーツァルトが活躍した18世紀のウィーンのミサ曲を中心に、楽しみながら歌い、学び合うことを目指して昨年6月に立ち上げられた混声合唱団「オラショクラブ」の第1回演奏会「オーストリアの教会音楽」が27日、カトリック高円寺教会(東京都杉並区)で開かれた。同合唱団の指導者である奥村泰憲氏の指揮の下、オーケストラの演奏に合わせて、ハイドンやモーツァルト、シューベルトが作曲したミサ曲・教会音楽5曲が披露された。集まった観客は、配られた歌詞の日本語訳に目をやりながら、ラテン語とドイツ語で歌われる合唱に静かに耳を傾けた。
同合唱団の名前「オラショ」は、日本の隠れキリシタンたちが使っていた「祈り」を意味する言葉で、隠れキリシタンたちが歌い継いできた歌を指す。歌はまさに神への祈りそのもので、キリスト教の礼拝は、神への祈りであり、賛美である歌であふれている。カトリックのミサは数々の歌によって進められ、「キリエ(あわれみの賛歌)」「グロリア(栄光の賛歌)」「クレド(信仰宣言)」「サンクトゥス(感謝の賛歌)」「アニュス・デイ(平和の賛歌)」の5つをまとめて作曲したものがミサ曲と呼ばれる。
この日の演奏会は2部構成で行われ、第1部では、ハイドンの「小オルガンのミサ」、モーツァルトの「雀(すずめ)のミサ」の2つのミサ曲が演奏された。同じ歌詞であるからこそ、比較することで分かる曲の違いを観客は楽しんだ。第2部では、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムズィーク」のほか、シューベルトの「詩篇92」と「マクニフィカト」が歌われた。「アイネ・クライネ・ナハトムズィーク」は、モーツァルトのセレナーデ(夜曲)の中でも人気の高い定番の曲。「詩篇92」は、安息日の賛歌、マグニフィカトはマリアの賛歌だ。聖書に書かれた詩がそのまま歌となった合唱を聞いた参加者は、教会音楽がまさに信仰者たちの祈りそのものであることをあらためて思い出させられた。
奥村氏が、この合唱団のアイデアを思いついたのは2013年夏。ウィーンにあるイエズス会教会の小聖堂で、「日本における3人のイエズス会士」という、長崎で殉教した26聖人の中にいたイエズス会士3人が描かれた絵を目にし、大きなインスピレーションを受けた。宣教師や多くの殉教者たちによって受け継がれてきた信仰の歴史の中で、自身が音楽や聖書を学んでいることを不思議に思い、感謝する思いを抱いた奥村氏は、これらの歴史の延長にある合唱団を日本に作りたいと考えたという。
結成から1年後、記念すべき1回目の演奏会を好評のうちに終えた奥村氏は、「常々、『聞いている側が主役。それは、お客さんであり、神様』だと話してきた」と、これまでの練習を思い返しつつ、「多くの人に支えられ、神様に守られているのだということを強く感じた」と今回の演奏会を振り返った。2010年にウィーンで洗礼を受けた奥村氏は、「バッハとモーツァルトを通して洗礼を受けた」と話し、「教会から生まれた音楽によって与えられた慰めや、信仰が深められる体験を、日本にも広めていきたい」と、これからへの期待を語った。
「400年続く合唱団」を目標に掲げているオラショクラブ。閉幕後には、観客から「素晴らしかった」「心が洗われるようだった」「胸がいっぱいになった」といった数々の激励の言葉が団員に投げ掛けられたが、団員らは「400年続けていきますから、また次回以降の演奏会にもぜひいらしてください」と明るい笑顔で応じた。
オラショクラブでは、次回の演奏会に向けてメンバーを募集している。現在の団員は約半数がクリスチャンだが、クリスチャンでなくとも、歌が好きで、歌を通して心身共に健康になりたいと思う人であれば、誰でも参加できるという。詳しくは、オラショクラブのホームページまで。