宮本栄三・宇都宮大学名誉教授から恵送していただいた、田畑忍編著『近現代日本の平和思想 平和憲法の思想的源流と発展』(ミネルヴァ書房)では、「Ⅰ 明治時代の平和思想」「Ⅱ 正期と昭和前期の平和思想」の2つの章において、36人の多様多彩な人物を選び、担当の専門家が一人一人の生涯と思想に焦点を当て、平和憲法の思想的源流を多方面から明らかにしています。
その上で、「Ⅲ 戦後・昭和後期の平和思想と運動」が続きます。この3章は16項目あり、その最初である「日本国憲法九条と幣原(しではら)喜重郎」が特に興味を引きます。
戦前、幣原は平和外交家として実績を積んでおりながら、強硬外交を唱える軍部などの勢力から軟弱外交と非難を受けていたのです。その幣原が敗戦後、占領下での戦後処理や民主化の中で、新憲法制定の任務遂行のため、74歳で組閣を委ねられたのです。
憲法9条の発案者は幣原だという興味深い説に対し異論があるのは確かです。しかし、確実で重要なのは、1946年3月6日、憲法改正草案の発表に際して述べられた「謹話以降、非戦・非武装に対する幣原の信念は確固としたものとなる」との記述は事実です。
憲法9条は最も徹底的な平和の指し示す――この確信と態度を、朝鮮戦争が勃発し、態度を変える者がいる中でも、79歳の死に至るまで、ぶれることなく幣原は維持したのです。
2015年の今日、憲法9条の明言に対してぶれない覚悟と態度を持ちつつ、「後期」高齢者が、「高貴」高齢者として死に至るまで歩み、若者と連帯する道を幣原喜重郎は指し示しています。(終わり)
(文・宮村武夫)