三浦綾子記念文学館(北海道旭川市)で13日から、終戦70年特別展「『銃口』〜いま、考えておきたい平和のこと~」が開かれている。終戦70年の今年、少しずつ風化し、その時代を語れる人が少なくなってきた中で、語り継ぐべきことを一人でも多くの人に知ってほしいという願いを込め開かれている。
『銃口』は、1940年から41年に起きた言論弾圧事件、治安維持法違反容疑で多くの教師が検挙された「北海道綴方(つづりかた)連盟事件」を題材とした、三浦綾子最後の長編小説。戦前、「天皇は神」という教育を受けた一人の男性が、戦争の足音が近づく中で教師となり、熱心に教えた綴り方(作文)教育により、突然警察に捕まるという「昭和と戦争」を描いた作品だ。「三浦綾子の遺言」ともいわれ、「昭和の時代が終わっても、終わらないものに目を外すことなく生き続ける者でありたい」という、次の世代へ大切なメッセージが託されている。
同館によると、この作品には、三浦綾子自身が軍国主義教育に何の疑いも持たなかった教師時代の反省から、「戦争を二度と起こしてはならない、起こさせてはならないと、若い人たちが真剣に考えてくれれば」という願いが込められている。同館は、「現代もさまざまな形で人間に向けられる銃口。それに対して無関心に生きることは、結果的に自分が自分に銃口を向けることになるのではないでしょうか。そのことに気付き、その危険に目をそらすことなく、人間が人間らしく生きることの大切さを再認識するきっかけになれば幸いです」と話している。
特別展の初日は初夏の陽気となり、道内だけではなく本州方面からも夫婦連れ、友人といったグループを中心に70人が来館し、一つ一つの資料を熱心に見学する姿が見られたという。
クリスチャンである三浦綾子は、1963年に朝日新聞社の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選。翌64年に朝日新聞朝刊で『氷点』の連載を開始して日本の文学界に登場し、長編小説をはじめ多様なジャンルの作品を残している。
三浦綾子記念文学館は、98年に三浦文学を心の豊かな糧として後の世に伝えていくことを目的として、日本中の三浦綾子ファンの募金によって建てられた全国でも稀な文学館。入館料と賛助会員による会費や、100人を超えるボランティアによって支えられている。
終戦70年特別展『銃口』は、9月30日(水)まで同館2階の回廊で開催。料金は通常の入館料のみ(大人500円、大学・高校300円、中学・小学100円)で、土曜日は小中高生無料。