世界で起こっている不正義の一つに性的人身売買がある。キリストの体であるクリスチャン・教会が、この不正義に対して立ち上がるなら、多くの子どもたちを救うことができ、さらに罪に囚われている大人たちをも解放することができる。なかなか人前で公に話すことがはばかれる性の話題だが、その問題について今回問い掛けてみたい。
ユニセフによると、人身売買は世界で年間320億ドル(約3・8兆円)規模のビジネスといわれている。被害者は2700万人ともみられており、その中でも子どもは、国際労働機関(ILO)の推定では550万人とされており、多い場合は被害者の約半数が子どもだとする見方もある。人身売買により、子どもたちは多くの場合、強制労働の他に、売春やポルノ、強制結婚といった性的搾取の被害に遭っている。
一方、日本も人身売買と全く関係のない国ではない。米国務省の「人身売買報告書」(2014年、英語原文・日本語仮訳)によると、「日本は、強制労働および性的搾取の人身取引を目的として、男女および子どもたちが送られる、目的地となる国であり、また供給国、中継国」である。同報告書での日本の評価は、「基準を満たさないが努力中」の国として4段階中の段階2。一方、2004年には「日本の人身取引問題は大きく、国際的に活動する日本の組織犯罪グループ(ヤクザ)が関わっている」などとして、主要7カ国(G7)では唯一、段階2より一つ下の「段階2監視対象」にも指定されたことがある。
日本における性的人身売買について同報告書は、アジアや中南米などの国から女性や子どもたちが、「雇用あるいは偽装結婚のために来日し、その後、売春を強要される者もいる」と報告している。被害者は多くの場合、借金を負わせられ、「責務奴隷」状態にさせられるという。また、巧妙かつ組織化された売春ネットワークが、日本人、特に家出をした十代の少女らを標的にし、「中には人身取引被害者となる女性や少女もいる」と報告している。さらに、「日本人男性は依然として、東南アジア、および程度は低いものの、モンゴルにおける児童売春ツアーの需要の大きな源泉となっている」としている。
一方、米国務省の「人権報告書」(2013年、英語原文・日本語仮訳)は、「日本は依然として、児童ポルノの製造および取引の国際的な拠点」であると報告している 。日本では、1999年から児童ポルノの製作は禁止されていたが、その映像・画像の「所持」が禁止となったのは、ほんの昨年の2014年6月。これは、G7および先進34カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)の中でも最も遅かった。
警察庁の報告(2014年)によると、2013年の児童買春・児童ポルノ送致件数は2353件で過去最高を記録。うち1644件が児童ポルノでの送致だった。過去10年間で、児童買春は半減したものの、児童ポルノは9倍以上に増加。警察庁によると、低年齢児童の児童ポルノは4分の3が強姦・強制わいせつの手段で製造されているという。また、児童ポルノの約8割が掲示板や出会い系サイトなどインターネットと関連しており、 被害者の多くは中高生だが、2013年には未就学児を含め小学生以下の被害者も92人いた。
一方、英BBCは今年1月7日、ウェブサイトに「なぜ日本は児童ポルノ漫画を禁止していないのか」と題する記事を掲載。10代にも満たない子どものようなキャラクターが性的に描写されていることについて、「これは、英国、オーストラリア、カナダでは、間違いなく議論になるだろうし、法にも触れるはずだ」と、日本の現状に驚きを見せた。
子どもの性的人身売買に取り組む関係者は、「小児愛者は、『外国へ子どもを買いに行こう』と、ある日思い立ってカンボジア(などの国)に来るわけではない。そこに至るまでに習慣化されたポルノへの関心があり、その罪の習慣が欲望となり、人柄となってある日行動に移すのだ」と言う。
このような問題に実際に取り組んでいるのは、地元警察か、細々と活動するNGO団体に限られているのが現状だが、クリスチャンにも立ち上がってもらいたいと、祈りを込めて作られた『ザ・ピンク・ルーム』という映画がある。
児童売春宿で働くカンボジアの少女たちを追ったドキュメンタリー映画で、米国人牧師のドン・ブリュースター氏が、2006年にカンボジアに設立した「アガペー・インターナショナル・ミッションズ(AIM)回復ホーム」の取り組みを1時間弱でまとめている。AIMは、カンボジアで最も児童買春が横行している地域の一つスワイパックを中心に、子どもたちの救済・回復だけでなく、この地域の大人たちにも大きな影響を与えている。
この映画は、2014年に米エミー賞(サンフランシスコ地区)を受賞しているが、映画を製作・監督したジョエル・サンドボス氏は、映画によって得られる経済的報酬をAIMの働きのためにと、全ての著作権をAIMに譲渡している。
警察やNPO団体は、子どもたちを救出したり、補導したりはできるが、心の深いところからの癒やしをもたらすことはできない。心が一新され、アイデンティティーを変えてくれるのは、創造主である父なる神しかいない。
この映画でも、救出された子どもたちが性産業に戻らないように、教育の機会を与えたり、職業訓練をしたり、セラピーのプログラムに参加させたりする場面が描かれている。しかし、少女たちの人生を本当に変える鍵は、回復センターのスタッフたちから注がれる無条件の愛や祈り、礼拝を通して少女たちに注がれる神の愛なのだと、ブリュースター氏はインタビューの中で述べている。
子どもを売り買いする大人も、それを外から傍観する立場にある人も、子どもたち一人ひとりが神の子だと認識し、父なる神の愛を通して彼らを見るとき、神の御心に沿った解決法が見つかるのではないだろうか。
この映画は、カンボジアの性的人身売買の実体を報告するだけでなく、クリスチャンが確実な解決法をもって、社会の変革に取り組んでいる姿を映したものでもある。クリスチャンで、「イスラム国(IS)」に殺害された国際ジャーナリストの後藤健二さんも、昨年この映画を観ており、「何度も何度も観た。間違いなく素晴らしい出来栄え、切り口、視点、内容」と評価していた。声なき者たちの声となり、ぜひこの映画のメッセージを世に広げていただきたい。
映画『ザ・ピンク・ルーム』(米国、2011年、57分)。米エミー賞受賞(サンフランシスコ地区、2014年)、ジョエル・サンドボス監督。XMEDIAの無料アカウント作成で日本語字幕付き全編視聴可能(視聴はこちら)。
■ 映画『ザ・ピンク・ルーム』予告編(日本語字幕付き)