無神論者の教授と大学生の「神の存在証明」をめぐる激論が話題となり、全米で大ヒットを記録した知的エンターテイメント、映画『神は死んだのか』。今月13日に日本でも公開され、その好スタートを記念して27日、ヒューマントラストシネマ渋谷(東京都渋谷区) で、アーサー・ホーランド牧師によるトークイベントが開催された。
アーサー牧師は、全米サンボレスリング選手権チャンピオン2回、全米柔道選手権3位を経験。23歳で洗礼を受け牧師になった後は、ソウルオリンピック選手村の公認チャプレンを務め、新宿歌舞伎町での路傍伝道、モーター・サイクル・クラブ「ザ・ロード・エンジェルズ」結成など、異色の経歴を持つ破天荒な牧師だ。
教会の外で活動をすることの多いアーサー牧師だが、最近は浄土真宗の僧侶にファンが増えてきたそうで、「布教のやり方について聞かせてください」「アーサーさんの話は講和に役立つ」と、一緒に教会で讃美歌を歌う僧侶もいるというのだから、還暦を過ぎても相変わらずの破天荒ぶりだ。
この映画の題名に対し、「バカやろう、神が死ぬわけないだろう」と一言。映画を観た感想も、「ふざけんな、こんなアプローチかよ」と辛口。しかし、「具体的には言わないけれど、登場人物の中ではおばあちゃんが一番好き」と語り、おばあちゃん子として祖母に育てられた自身の生い立ちに触れた。
父親が米国人のアーサー牧師は、子どものころ「あいの子、あいの子」と指を指されて育った。「あいの子」の意味が分からなかった彼に、祖母は「愛されている子どもっていう意味や」と話した。いじめられた報告をすると、「うちの孫になにするんや」と、怒鳴り込んでくれるような人だったという。祖母は熱心な創価学会の信徒だったというが、祖母の接し方から「自分は愛されている」という体験をしたアーサー牧師は、「この映画の中に出てくる表現がみなさんにどう伝わるかは分からないが、日本人は言葉の論法よりも、人の優しさや真心に、心開かれるのではと思う」と語った。
また、ミッションスクールで見せられた映画『ベン・ハー』に登場するイエスの後姿が幼心に印象的だったそうで、「なんなんだこれは」と衝撃を受け、「神はいるんだ」とずっと思っていたと話した。だが、どの宗教が正しいのか、難し過ぎて分からなかったのだという。
しかし、スポーツの世界をとことんまでつきつめる中で、挫折を通して真の神に導かれていく。人間は幸福を追い求めるが、幸福は状況によって変わるもの。試合で勝てば幸せ、でも負けたらそうとは思えなかった。だが、神からの祝福は台風の目のようなもので、周りの状況がどんなに荒れ狂っていても、不思議な安らぎと平安があることを知ったのだという。
長さ3メートル、重さ30キロの十字架を背負って歩く、日本列島十字架行進でもよく知られるアーサー牧師。現在はその2倍の距離になる全米横断十字架行進の最中だ。雨が降ると水を含み、60キロにもなるという十字架。背負って歩いていると、周囲の「自然」が目に入ってくるのだという。
神を知らない日本人も、自然の偉大さならよく分かっている。大事なものは心で見る、とサン=テグジュベリが書いたように、目で見ている世界の背後に目に見えないものがあることは多くの日本人が感じているはずだ、とアーサー牧師は語る。鴨長明も森鴎外も自然を見て、その背後にある何か偉大な存在を感じてきた。
今の時代は、宗教と神が同一のものでないということを語る必要があるのではないか、とアーサー牧師は提起する。ジョン・レノンは「Imagine」の中で「想像してごらん 国境のない世界を 宗教のない世界を」と歌ったが、「神のいない世界」をとは言っていない。人間が生み出した宗教が、人を混乱させているのではないだろうか。しかし、宗教以前に神がこの世界を造ったのだから、その存在を信じようと信じまいと、全てのものが神の御手の中にある。風の音、川の流れの音が人々の心の扉を叩き続けているが、その中に「俺(イエス・キリスト)はお前を愛しているよ」という、かすかな神の声を聞くことができるかが大事なのだという。
「この映画を観て、怒る人もいるかもしれないが、反応があるということは何か考えるきかっけになるということ。自然を見るとき、この映画を観るとき、神について思いを馳せてほしい」と、アーサー牧師は期待を込めてメッセージした。
映画『神は死んだのか』は、ヒューマントラストシネマ渋谷をはじめ、全国でロードショー。来年に公開を控える劇場も多数ある。詳細は公式ホームページで。