神は死んだのか――。この問いに明確な答えを持っている人は、日本にどれくらいいるのだろうか。
そもそもこの問いが成立するためには、それ以前に「神は生きている」あるいは「生きていた」という前提がなくてはならない。「神の存在証明」は、キリスト教界にとどまらず、古代から問われてきた大きな問題であった。だが、19世紀にドイツの哲学者ニーチェが「神は死んだ」と宣言して以来、ニーチェの著作を一冊も読んだことがない人にまで、この宣言が大きな影響を及ぼしてきたことは否定できない。
「私は無神論者だ」と声高に生徒の前で宣言するラディソン教授もその一人だ。カミュ、フロイト、チョムスキーなどの著名な哲学者たちはみな無神論者であったという事実が彼を支えている。ラディソン教授の講義を聞くためには、「神は死んだ」という宣言書を書き、教授と同じ考えであることを示さなくてはならない。
講義で前に立ち、話をするのは教授だ。講義の中では教授が一番賢く一番偉い。単位を取るため、学生は何の疑問も抱かずにペンを取り、白紙に「神は死んだ」とサインを書いていく。しかし、ジョシュ・ウィートンたった一人が「僕はクリスチャンです。書くことはできません」と静かに声を上げた。
「神は死んだ」と書くか、神の存在を全生徒の前で証明するか。2つの選択肢を突きつけられたジョシュは、「ですから、わたしを人の前で認める者はみな、わたしも、天におられる私の父の前でその人を認めます。しかし、人の前でわたしを知らないと言うような者なら、わたしも天におられるわたしの父の前で、そんな者は知らないと言います」という聖書の言葉に勇気を得て、後者を選び取る。
「教授は神を訴える者。僕は神を弁護する者。講義を聴くみなさんは、陪審員です。どちらが正しいかジャッジしてください」。図書館でたくさんの本を借り、教授の説を覆す説を探す。有神論を信じる哲学者や科学者の説を引用して、反論を試みていく。
「あの講義での神は私だ。逆らい続けるならば、お前の将来をつぶしてやる」とささやく教授。「人生で誰が一番大事なのか決めてちょうだい」と迫る彼女。大学の一講義におけるジョシュの挑戦は、彼自身の人生そのものをも揺るがしてゆく。
一方、ジョシュだけでなく、彼が声を上げたことで、彼が気が付いていないところでも神は事を動かし始める。神という言葉すら初めて聞く中国人留学生、熱心なイスラム教徒の父親に隠れ、キリスト教の伝道者フランクリン・グラハムのメッセージを聞く女子学生、クリスチャンに攻撃的な記事を書いて人気を得ている女性記者、無神論者の夫との不一致に苦しむ妻・・・。
ラディソン教授が言うように、神は死んだのか。それとも、ジョシュが言うように、神は生きているのか。その問いが、哲学や科学といった自分自身とは切り離されたところにある問いではなく、一人の人間としての自分に突き付けられるとき、あなたが導き出す答えはどちらなのか、劇場でぜひ確認してほしい。
2014年3月に全米公開されるや、3日間で600万人以上を動員した本作。全米の大学で実際に起こった数々の訴訟事件をベースに映画化された。作中には、米国で大人気のクリスチャン・ロックバンド「ニュースボーイズ(Newsboys)」や、人気TV番組『DUCK DYNASTY』に出演中のクリスチャン実業家・ウィリー夫妻も実名で特別出演。米社会におけるキリスト教の位置付けが日本とは少し違うことが分かる映画ともなっている。
映画『神は死んだのか』は12月13日から、ヒューマントラストシネマ有楽町&渋谷ほか、全国で上映される。