世界的な新約聖書学者の一人として知られるN.T.ライトの著書の日本語訳が近々出版される予定だ。13日には、東京都豊島区の巣一会館で、第3回N.T.ライト・セミナーが開かれ、現在、N.T.ライトによる一般向けのキリスト教入門書や専門的な新約聖書の神学書を含む複数の書籍の翻訳作業が同時に進められていることを、関係者が明らかにした。
N.T.ライトの著書を1999年から読み、今回のセミナーの委員で司会を務めた小嶋崇牧師(日本聖泉キリスト教会連合巣鴨聖泉キリスト教会)は、セミナー参加者に対し、「私は今年の暮れから来年にかけてをライト元年と呼べるかなと期待している。やっとついにここまで来たという感慨がある」と語った。
小嶋牧師によると、これらの出版情報は、読書会・セミナー参加者の購入計画への参考として考えており、一般への公開は意図していなかったというが、「今後、読書会のウェブサイトに、部分的に、段階的に、公開されることはありうるし、そうなるだろうと思う」と言う。
N.T.ライトは、1948年英国イングランド生まれ。2003年から2010年まで英国国教会ダラム大聖堂主教を務め、現在はスコットランドにあるセント・アンドリュース大学で、新約聖書と初期キリスト教史の教授を務めている。フルネームはニコラス・トマス・ライト(Nicholas Thomas Wright)。トム・ライト(Tom Wright)とも呼ばれ、英国ではテレビやラジオでの出演も多く、その著書や講演活動で欧米をはじめ国際的に幅広く知られている。
N.T.ライトを紹介している非公式英文サイトには、彼の膨大な数の著書や説教、論文、記事、講演録、録音、DVD、動画などが掲載されている。著書に、キリスト教入門書の『Simply Christian』や『Surprised by Hope』、新約聖書の各書物の手引き書である Everyone シリーズ、新約聖書の神学書である『The New Testament and the People of God』など多数がある。N.T.ライトの公式フェイスブックを「いいね!(Like)」している人は、16日現在で5万6千人を超えており、幅広い支持を得ている。
N.T.ライト・セミナーはその目的について、「N.T.ライトの業績を講演会、その他を通して日本に普及させること」と説明している。当初はN.T.ライト読書会として始まり、2012年にはフェイスブック上での読書会をスタート、3年前からは毎年セミナーを開催している。
N.T.ライト・セミナーのブログには、N.T.ライトの聖書解釈・理解について、「現在欧米圏で最近の聖書学的洞察に基づき、二千年の西洋キリスト教史をラディカルに問い直し、世俗化されたポストモダン社会に向かって、キリスト教信仰の真正性と関連性を、保守派・福音派を超え、主流派を巻き込み、カトリックや正教も視野に入れ、あらゆるキリスト教教派・宗派を含みつつ、神の国の福音を真正面から主張する」と記されている。
N.T.ライトによる著書の日本語訳は、現在のところ、岩上真歩子訳『ティンデル聖書注解 コロサイ人への手紙、ピレモンへの手紙』(いのちのことば社、2008年)があるのみで、その著書は日本ではまだあまり知られていない。
今回のセミナーでは、N.T.ライトが日本でどのように受容されていくのかをテーマに、パネルディスカッションによる交流が行われた。前半では、フェイスブックのライト読書会のメンバーで、N.T.ライトに関しては初心者だという3人をパネリストに、N.T.ライトに対するイメージやN.T.ライトの聖書理解、N.T.ライトに質問してみたいことなどが語られ、会場との討論が行われた。後半では、翻訳の現状についての中間報告や、出版社の課題などについての話し合いが行われた。