イスラエル・ユダヤ専門の日本唯一の出版社である株式会社ミルトス(東京都千代田区)は24日、賀川豊彦(1888〜1960)が1933年に記した『小説キリスト』の復刻版を刊行した。
「世界的なキリスト教伝道者であり、大ベストセラー『死線を越えて』の作者、生協の父と呼ばれる賀川は、渾身5年の歳月をかけて、この小説キリストの愛の姿を描いた。感動の大作」「80年ぶりに復刻する本書は、賀川文学の集大成と言える」と、同社はそのウェブサイトで記している。
それによると、「本書には、賀川の幅広い社会運動の根底にあった『イエスのように生きたい』という彼のキリスト信仰が垣間見られる」という。
■ ノーベル平和賞・文学賞の候補にもなった賀川豊彦。同社から出版された賀川の著書『吾が闘病』『イエスの宗教とその真理』に続いて、なぜいまこの本の復刻版が発売されたのか?
ミルトスの代表取締役である河合一充氏はこの点について、本紙からの問い合わせに答え、「賀川豊彦松沢資料館の加山久夫館長より、推薦がありました。弊社は古典的なキリスト教書で絶版になっているものの復刻を願っておりますが、賀川がノーベル賞の文学賞に1947、48年頃候補に挙がっていたことを50年後にリリースされて知ったことをキッカケに賀川の文学についてシンポジウムがありました。詳しくは、本書の編者あとがきにあります。徳島の香川記念館の田辺健二館長の熱烈な推薦があったとのこと。小説の形ではありますが、賀川豊彦の信仰とキリスト観がよく現れている、貴重な文学作品ですので、当社で発刊を企画いたしました」と答えた。
ミルトスのウェブサイトには、加山氏の編者あとがきから次のような文が引用されている。
「洗礼者ヨハネの死からイエス自身の十字架死へ、さらに散文詩による復活に至るイエス劇は、著者の並々ならぬ創作意欲が伝わってきます。牧師である賀川が社会運動に関わることについて、『私はイエスの弟子だから社会運動を行うのです』と語るように、彼の幅広い社会運動の思想と実践の根底には、イエスのように生きたいという彼のキリスト信仰がありました。本書はまさに『賀川のイエス・キリスト』なのです」
■ 初版からすでに81年を経た小説だが、復刻版と初版との違いは何か?
「戦前の本ですから、現代人に読みやすく、現代仮名づかい、新漢字などの修正をしました。他には、最近の聖書学、聖書地理学、ユダヤ教関連の知識を元に本文を検討し、若干の訂正を試みました。しかし、全体には著者の表現を最大限に生かして、初版の雰囲気を残しました。不快語差別用語の問題もありますが、残しました」と河合氏は説明した。「著者自身が、執筆を意図して、2度、聖地巡礼をしており、表現はかなり正確で、体験を活かしており、聖地旅行を何度もしている編者も感心する点多々ありました」
第1章「ガリラヤ湖畔のイエス」から第12章「十字架への道」まで、12の章からなるこの本が「小説」となっている理由について、河合氏は「著者は、四福音書を自由に使い、また行間を読むように、フィクションも含めて、キリストを描いていきます。ヨセフスも利用していますし、該博なキリスト教書の知見を含んでいます。イエスの心理描写にしても、賀川の宗教体験に基づいた部分もあり、創作性を含む意味で、『小説キリスト』と題したもののようです」と述べた。
価格は税抜きで1冊3150円。ミルトスのウェブサイトにあるオンラインショップでも注文できる。問い合わせは同社(電話:03・3288・2200)まで。