世界福音同盟(WEA)は4日、同同盟の信教の自由委員会(RLC)が行ったビルマ(ミャンマー)の少数者に関する調査分析の報告書を公式英文ウェブサイトに発表した。
一方、難民・移住労働者問題キリスト教連絡会(難キ連)は、6月21日(土)午後2時から日本キリスト教会館(東京都新宿区西早稲田)4階会議室で、多くのミャンマーカチン民族難民が礼拝を行っている日本バプテスト同盟東京平和教会の大矢直人牧師を講師に、「難キ連 世界難民の日 セミナー」として、「~ミャンマー民主化の陰に、私たちが知るべき真実~カチン民族とカレン民族に何が起きたか、起きているか」と題し、映像を交えた講演会を開く。カチン民族の手工芸品販売等も行うという。
以下は本紙によるその調査分析報告書の非公式訳である。なお、この報告書の英語原文では軍事政権下の国名であるミャンマーではなく、それより前のビルマという国名が主に使われている。
ビルマ(ミャンマー)の仏教徒過激集団が、イスラム教徒の少数民族であるロヒンギャ族に対する暴力による攻撃を駆り立てているとしてニュースになっている。だが被害者たちを守るどころか、政府はイスラム教徒だけでなくキリスト教徒の基本的権利をも制限するような法律を提案した。
与党である連邦団結発展党の下にある委員会が、「国家による人種と宗教の保護」の一括案の一部として2つの法案を作成した。宗教改宗法案とビルマ仏教徒女性のための結婚法に関する緊急条項である。
異なる宗教同士の結婚に関する立法によって、男性側が結婚前に仏教に改宗しない限り、仏教徒の女性が自分とは異なる宗教の相手と結婚することが制限される。この改宗法案は、誰が他の宗教に改宗してよいのか、そして誰がしてはいけないのかを、国家が決めてもよいことにするものである。
これらの法案の「必要性」を政府が感じたのは、2012年にラカイン州で起きた、死をもたらす分派の暴力によって、何百人ものロヒンギャ族のイスラム教徒たちが地元の仏教徒たちに殺され、何万人もの人たちが住処を追われたのを受けてのこと。
この法案の背景には、「人種・宗教と信条の保護のための組織」と呼ばれる仏僧の連合体がある。この連合体の一部を担っているのが「969運動」と呼ばれる非常に問題のある過激な運動の指導者、アシン・ウィラトゥ・テラである。この運動は少数者のイスラム教徒たちを多数派である仏教徒たちに対する脅威として描いている。ウィラトゥはかつて自らを仏教の「ビンラディン」と表現した。
2012年の暴力の後、世界中の各国政府や人権団体は、バングラデシュからの移民を先祖とする、ロヒンギャ族の尊い命を保護するよう要求した。だが、ミャンマーとも呼ばれるビルマの政権は、政治的に功利的な動きで、代わりに仏教徒の過激主義の団体に耳を傾けることを選んだのだった。
これらの法案が明らかにイスラム教徒の少数者を狙ったものである一方で、それらが提起された文脈からすれば、それらの法律は、キリスト教徒を含む、全ての少数者の信教の自由を制限することになるだろう。
とりわけ改宗法案は信教の自由をひどく侵害するものとなるだろう。もっとも、7つの章からなるその草案は、その目的が信教の自由を確保することと、改宗を透明にすることであると主張してはいるが。
この法案は町区に改宗を検証し「承認」する権限を持つ「登録委員会」を形成するものとなるだろう。別の宗教に改宗しようとしている人たちは、自らの個人情報を伴う申込書を提出するとともに、改宗の理由を述べることを義務付けられることになる。この委員会は、少なくとも4人の出席により、申込者と面接を行い、90日以内に、改宗をする意図が真摯なものかどうか「判断」し、その改宗が自発的なものかどうかを「評価」する。
この委員会が承認を交付した後にのみ、申込者は改宗証を発行されるが、それは申込者によって地元の移住管理所に報告されなければならなくなる。
この法案はまた、18歳未満の者は何人も生まれついた宗教から改宗できないと述べている。
この法案は、他のいかなる宗教をも侮辱ないし損害を与える意図を持った改宗や、強制ないし強要された改宗、宗教の選択に影響を及ぼすための嫌がらせを不法とするものとなり、それによって当局に裁量の余地を残すことになる。
いかなる禁止をも破って有罪とされた者は、2年間の禁固刑及び最高で20万チャット(200ドル)の罰金の対象となる。
上記の僧侶の連合体が改宗法に賛成する130万人の署名を集めたと主張している一方で、ビルマ国内及び国外の運動家たちや団体は、この立法に対して重大な憂慮を示した。
「人々が別の宗教に改宗したい場合に許可を求めるよう義務付けられるのは容認できない」と、マンダレー・キリスト教徒社団協議会の共同議長であるゾー・ウィン・アウン氏はエーヤワディー誌に語った。「この法規が第18条と似たものになるのではないかと心配だ」と、彼は抗議行動を行う前に当局からの許可を得るようビルマ国民に義務付ける法律に触れつつ述べた。「許可なしに別の宗教に改宗したら、彼らは行動を起こすだろう」
「ビルマの政府は、宗教を政治化し政府に宗教の決め事への立ち入りを認めるような法案を考えることによって、宗教共同体の緊張を焚き付けている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長であるブラッド・アダムスは述べた。「2年以上にわたる反イスラム教徒の暴力を経て、この法律はイスラム教徒や他の宗教的少数者をさらにもっと危ない状況にさらすことになる」
アダムスはこう付け加えた。「自分の宗教を変えることに政府の許可を義務付けるのは、信教の自由についてのあらゆる教えに反し、役人が恣意的に行動し許可を否定する幅広い自由を与えることになる。この宗教法の草案はビルマのイスラム教徒である少数派に対する非道な行為をさらに行うための秘法なのだ。仏教徒の過激主義者たちに迎合するよりもむしろ、政府はビルマの脆弱な改革の過程を脅かす分断に橋をかけるために行動するべきだ」
人気のある野党指導者のアウン・サン・スー・チーも大統領に立候補するかもしれない次の選挙が来年予定されていることからすれば、テイン・セイン大統領の政権は、たぶん、出自やイデオロギーにかかわらず、仏教徒の団体をなだめたいのだろう。
ビルマの人口は仏教徒が中心であり、その大多数はビルマ族出身である。そして少数者社会の大半は宗教的・民族的にビルマ族の仏教徒の人たちとは異なっている。
提起されているこの法案は、八百長だったと信じられ破滅的なサイクロン・ナルギスのすぐ後に行われた国民投票を通じて2008年に承認された憲法を改正するための、スーチーの運動から注意をそらすための試みにもなるかもしれない。この憲法は、何十年も軍によって支配された国に真の民主主義が到来するのをいまだに認めていない。
この憲法は軍に絶対的権力を与えることによって政府に対する軍の統制を確立するものである。それは国会を含むさまざまな立法機関の25パーセントを指名することをタッマドゥ、つまり軍に認めている。憲法改正が可能なのは、少なくとも国会議員の75%がそれに賛成票を投じる場合のみである。
ビルマの少数者の集団や個人は、議会での承認を求める前に、検討のための勧告を6月20日まで受け付けるこの法案の草案委員会に対して、憂慮を表明しなければならない。この法案は6月30日までに完成されセイン大統領に提出されて承認される可能性がある。
ビルマの民主主義と自由の希望と常に見られてきたスーチーは、自らの取り組みの焦点を憲法改正に当てているように見え、それは正しい動きではあるが、しかし世界は、この国の少数者たちの空間を急速に狭めている、増大する仏教原理主義に対して、彼女に力強く声を上げてほしいとも期待しているのだ。