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不条理なる死を不可知の光で中和せよ

犬も歩けば棒に当たる的な(その1)

2024年5月9日16時01分 コラムニスト : 藤崎裕之
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不条理なる死を不可知の光で中和せよ―キリスト教スピリチュアルケアとして―(68)+

不条理なる死を不可知の光で中和せよ―キリスト教スピリチュアルケアとして―(68)

船酔いはつらい

私は船が苦手である。とはいえ、船旅は人生で何度か経験してきたわけであるが、神戸から松山までフェリーで一晩揺られたのが最長記録ではないかと思う。それが25歳の時だった。相当に大きな船で、恐らく1万トンくらいはあったはず。しかし、世の中には巨大な船が他にもたくさんあって、自衛隊の護衛艦では2万トン、米軍の空母は10万トン、さまざまな荷物を運ぶタンカーには35万トンというのもある。

さて、私が一番数多く乗ったのは宇高連絡船である。これは本州と四国の間にまだ橋が通っていない時代の代物だ。岡山県の宇野駅と、香川県の高松駅を結ぶ鉄道連絡船であった。その大体が2千トン以下の船である。私は学生時代、大学があった京都から高知に帰省する折りに随分とお世話になった。最後に乗ったのは24歳くらいではないか。

瀬戸内海は総じて船が大揺れすることはないので、怖いと感じたことはない。それに比べ、外洋を走る船は「ザップーン」状態だそうだ。新婚旅行でオーストラリアに行ったのが30年前で、その時にグレートバリアリーフを訪れたのであるが、そこで外洋を走る船に初めて乗ったのだ。天気はすこぶる良いのだが、とにかく外洋の船は揺れる。酔い止め薬がなければ「オエオエ」状態だ。

あと記憶にあるのが、函館のイカ釣り漁船である。これもまあ、陸から近距離とはいえ、太平洋に違いない場所をザップーン状態で進んでいくのだ。当然、オエ〜である。幸いなことに、同乗していた小児科医たちもオエオエ状態だったので、まさに医学を超えた荒波だったのであろう。

漁師と船乗りはイコールではない

イカは岸からも釣れなくはないが、やはり船で沖にこぎ出した方が多く収穫できる。なぜなら、イカは深場が好きなのだ。水深80メートルとかそれくらいだ。ガリラヤ湖の水深は私には分からないが、まさか足が着く深さでもないだろう。実際のところ、魚はそんなに深い場所にいるわけではないので、せいぜい10メートルの水深があればそこそこは漁が期待できそうだ。つまり、深い湖の真ん中へわざわざ漁師が出ていくとは考えにくいのだ。

しかし、そういうのは実際に漁師に聞いてみないと分からないものである。というか、漁師なら福音書に出てくる湖に関する箇所をどのように読むであろうか。残念ながら日本の場合、漁師がキリスト教徒であるというのは非常に珍しい。私も漁師から聖書についてどう思うか聞いたことはない。船乗りのキリスト教徒、特に自衛隊関係者は結構いると思うが、恐らく漁師の感覚と船乗りの感覚というのは、随分と違うと思う。

漁をするのが漁師であって、船を操るのが船乗りである。似ているようで違うのではないだろうか。

陸を行く、海を行く、それぞれ難点はあるもの

イエスの弟子には何人かの漁師がいた。彼らは船乗りではない。岸から網を打つ者、沿岸で舟から漁をする者、それぞれである。しかし、そもそも漁が目的なら舟に乗ったとしても岸から遠くへは行かない。イエスは弟子たちに、舟に乗って湖の向こう側へ行くように命じる。それも、しばしばそういうことがあったようだ。

今回読むマタイ14章22~33節の場面でも、イエスは無理やり弟子たちを舟に乗せて向こう岸へ行かせようとした。ガリラヤ湖はけしてスモールレイクではない。ちょいと向こう岸に行くということにはならない。しかもガリラヤ湖は、周りを山に囲まれているので風が強く吹き付けるのだ。

北海道の摩周湖がそんな感じだ。摩周湖の方がずっと小さいが、向こう岸への渡し舟などはない。霧が出たら方向を見失うし、そこそこ風も強いし、深いし、そんな危険を冒す必要などないのだ。陸をせっせと歩いていけば、向こう岸はそんな遠くじゃない。ガリラヤ湖だって同じだ。向こう岸への渡し舟があったとか、水運で利用されていたとか、そういう話は聞かない。ほとんど誰も舟で渡ろうとはしないものなのだ。つまり、弟子の中に漁師が何人かいたとしても、ガリラヤ湖を舟で渡るというのは未経験の冒険ということになる。

山で祈る

さて、弟子たちを強いて舟で向こう岸に渡らせ、イエス本人は何をしていたかというと、祈るために山に登られたと書かれている。山に登って祈るというと、何か修験者のようなものを想像させるのであるが、どうもそうではないようだ。また、何を祈ったのかという具体的な記述もない。だから、祈りの内容については分かりようもないのだが、はっきりしているのは、ガリラヤ湖は山に登れば一望できるということだ。実は、向こう岸に向かって悪戦苦闘している弟子たちの姿を、イエスはご覧になっていたはずなのだ。

とはいえ、自分たちの姿が見られているというのは、なかなか気付かない。気付けば、それはそれで演技をしてしまう。人間と神の関係というのは、まことにややこしいものだ。私に気付いてほしいけれども、私の不都合には目を背けてほしいというところか。演技であれば、神にはバレバレなのであるが、人間にはバレてないから良しとするか・・・。(続く)

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◇

藤崎裕之

藤崎裕之

(ふじさき・ひろゆき)

1962年高知市生まれ。明治から続くクリスチャン家庭に育つ。88年同志社大学大学院神学研究科卒業。旧約聖書神学専攻。同年、日本基督教団の教師となる。現在、日本基督教団隠退教師、函館ハリストス正教会信徒。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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